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猿喰鷲(さるくいわし)8 side蓮

「だから、僕はこの世界を変えたいと思っている。彼のために。彼が望んだように…αもβもΩも関係ない、皆が等しく自ら望んだ道を歩めるような、そんな世界に。そうしていつか…彼が本当に愛する人の側で、幸せそうに笑っている姿を見ることができたらと…そのために、必ず僕がこの国のトップになる」 そう、言いきって。 大臣は強い意思を込めた眼差しで、俺をまっすぐに見つめた。 「…どうして、俺にそんな話を?」 「さぁ…どうしてかな。なんとなく、君に話してみたい気分だった。それだけだよ」 「初対面の俺を、そんなに信用していいんですか?今までひた隠しにしてきた家の事や恋人の事、俺がどこかに売ったりしたら、どうするんです?」 「君は、そんなことはしない。なぜなら、そんなことをしても君にはなにひとつメリットなんてないからだ。君は、気紛れや好奇心だけで人を売るような人間じゃない。そうだろう?」 「そんな風に言われたら、話すものも話せなくなりますね」 「それに…君は、僕と同じだろうと思ってね」 「同じ?」 「君が家を出たのは、愛する者のためだろうと…このホテルを作ったのは、その人のためなんだろうと…そして、その相手はΩなんだろうと…なんとなく、そう感じたから、かな。違うかい?」 確信を持った言い方に、思わず口元が緩む。 「いえ…その通りです」 答える必要のない問いに答えてしまったのは、目の前のこの男にひどく親近感が沸いたから。 それだけだったのだろうか。 自分でも、わからないけれど。 「でも、俺は大臣のような高尚な精神は持ち合わせていませんよ。全ては、自分のエゴです。このホテルが話題になり、日本中に名前が知れ渡れば、あいつがきっと気付いてくれるだろうと。そういう計算があってのことですから」 「…あいつ、とは?」 「俺の、運命の番です」 はっきりと告げると、大臣の目が微かに見開かれた。 「故あって、今は離れてしまっていますが…俺はいつか、あいつに辿り着く。いや、辿り着かなければならないんです。なにがあっても」 自分を鼓舞するようにそう言って。 でも、そんな自分に笑いがこみ上げる。 「…なんて。今のところなんの手懸かりも掴めていないんですけどね…」 日本に戻ってきてすぐに探偵を雇い、楓の消息を辿ろうとした。 だが、依頼内容を聞いただけで悉く断られた。 Ωの失踪には、人身売買専門の闇組織が関わっていることが多く、殆どの場合消息を辿ることは出来ないし、下手に首を突っ込むと自分達の身も危なくなるからだという。 もしそれが本当なら、楓は… それでも諦めるわけにはいかない おまえは必ずどこかで生きている それだけはわかるから たとえどんな姿になっていたとしても 必ずおまえの元に戻らなくてはならないんだ

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