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猿喰鷲(さるくいわし)12 side龍

「…はい」 小さく頷いた俺を見て、父は満足そうに頷いた。 「来月の関西支社の視察、おまえも同行するように」 「え…」 「ゆくゆくは、おまえに全て譲るものだ。今から見ておいても、損はない。佐久間には、もうスケジュール調整させてある」 「…わかりました」 俺を信じていると言いながらも、結局は俺の都合なんてお構い無しの態度に、こっそり溜め息を吐くと。 そのまま、沈黙が落ちる。 「それでは、俺はこれで」 これ以上の話はないんだろうと、踵を返すと。 「…おまえの飼っていた鳥…放しておいたぞ」 背中に、唐突にそんな言葉が投げ掛けられた。 「は…?」 なんのことだか意味がわからず、鳥なんて飼っていないと言いかけて。 全身から、血の気が引いた。 「…お父さん、まさかっ…」 「おまえが本当に愛する者がたまたまΩだったのなら、私は反対はしない。結婚しようが番になろうが、おまえの好きにすればいい。だが、あんな風に自分の欲求を満たすためだけに、監禁するようにしてΩを囲うことは許さん」 「瑠衣を、どこへやったんですっ!?」 「心配することはない。地方のグループ企業で正社員として雇ってやると言ったら、嬉しそうに飛び付いてきた。今ごろはもう、新幹線の中だろう」 「勝手な真似をっ…」 「いい加減、九条の次期当主としての自覚を持て。おまえの一挙手一投足を、全ての社員が見ている。…誰にも、弱みを握られてはならないんだぞ」 「っ…」 返す言葉も見つからず。 「…失礼します」 俺は父を一睨みして、逃げるように部屋を出た。 そのまま玄関を出ると、門の前に車が止まっていて。 その後部座席に黙って乗り込むと、行き先も告げぬうちに走り出す。 「…瑠衣のことをお父さんにチクったのは、おまえか」 澄ました顔でハンドルを握る佐久間を睨み付けると、ちらりとバックミラー越しに目が合って。 すぐに、すっと逸らされた。 「おまえっ…」 「…Ωなんて、人間のくせに性欲をコントロールできない、ただの淫乱な獣です。そんなのに関わっていたら、副社長の品格が下がります」 「βのくせに、勝手なこと言ってんじゃねぇっ!」 怒りのままに、大声で怒鳴ると。 これ見よがしに大仰な溜め息を吐かれる。 「…蓮さんも、あのΩに関わりさえしなければ、九条を捨てるなんて馬鹿なことをすることはなかった。今頃、社長になって九条をもっともっと大きくしていたはずなのに…」 「…おまえ…俺の秘書のくせにっ…」 「正直に言わせてもらえば、今の龍さんでは蓮さんの足元にも及びません。秘書にこんなことを言われて悔しいと思うなら、さっさと蓮さんを越えてみせてください」 淡々とした口調で、そう言われて。 「…っ…黙れっ!」 一瞬、怒りで視界が真っ赤に染まった俺は、佐久間の座る座席を怒りに任せて蹴りつけた。

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