199 / 566
猿喰鷲(さるくいわし)14 side龍
「…少し、お疲れのようですね」
会議が終わり、大きく息を吐き出すと。
隣に座っていた専務の牧野が、心配そうに顔を覗き込んできた。
「また、お父上にお叱りを?」
「…違います」
子どもの頃から知っているからか、上司と部下の関係になっても子ども扱いしてくることに、かなりの苛立ちを感じつつ。
努めて冷静な態度を保つ。
ここで意地になっても
どうせまた子ども扱いされるだけだし
この前時代の遺跡みたいな役員どもをさっさと追い出さないと
いつまで経っても俺は出来損ないの弟のままだ
「…社長は、ビジネスに関してはとにかく厳しい方ですからねぇ…。たとえ身内であっても、容赦しないですし。あまり、気に病まないほうがいいですよ」
慰めになってない慰めを口にする牧野を、じろりと横目で睨み付ける。
どうせおまえも
これが蓮さんなら…とでも思っているんだろ
「…仕事ばかりで、気が滅入っているんでしょう?今日は、私が気晴らしに良いところに連れていってあげましょうか?」
その俺の眼差しをどう捉えたのか。
牧野はにっこりと笑って、そんなことを言った。
「良いところって…どうせ、キャバクラだろ」
牧野は無類の女好きで有名で、そういう店に毎日のように出入りしているのは誰もが知っている話だったから、鼻で笑って一蹴すると。
なぜか、面白そうに目を細め。
「若様が女性嫌いというのは、存じております。男のΩがお好みだということも」
内緒話をするように、耳元で囁く。
「…俺は、別に…」
「良いところがあるんです。男Ωだけのクラブ。私は基本女性の方が好きですが、そこのΩたちは見映えも良くてねぇ…私でもくらりとするほどです。若様も、近いうちに接待でああいう店を使うことになるでしょうし、社会科見学だと思って…ね?どうですか?」
下卑た目で上目遣いに見つめてくるのに、寒気がしたけれど。
瑠衣がいなくなってから、欲求不満なのは事実で。
「…いくらだせば、その店のΩが買えるんだ?」
つい、話に乗っかってしまった。
「これは、お気の早い…娼館ではないので、店でそういうことは出来ませんがね。常連になれば、裏でΩを買うことも出来ますよ。αで、地位も権力もお持ちの若様なら、きっとすぐに買えるようになるでしょう」
なにが面白いのか、クスクスと笑いを溢しながら囁く牧野を一瞥して。
足を、踏み出す。
「え?若様、どちらへ?」
「どちらへって…もう仕事は終わったんだし、行くんだろう?その、Ωだけのクラブへ。さっさと案内しろ」
「畏まりました。楽しい夜に、なるといいですねぇ」
ともだちにシェアしよう!