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猿喰鷲(さるくいわし)15 side龍

4人乗れば定員オーバーじゃないかと思うほど小さくて薄汚れたエレベーターを降りると。 想像もしていなかった異空間が現れた。 「いらっしゃいませ、牧野様」 映画のセットのような、豪華なシャンデリアとロビーに呆然としていると、顔にデカイ傷痕のある男が近づいてくる。 …こいつ…絶対ヤバい組織のやつだろ… こんなのがいる場所に行ったなんてお父さんに知れたら またなんて言われるか… 「牧野、やっぱり俺…」 「…そちらは?お連れ様ですか?」 思わず、踵を返そうと足を引いた瞬間、射殺(いころ)されそうな鋭い眼差しが俺を突き刺して。 思わず、息を詰めた。 「そうそう。今日は二人でよろしく」 「初見のお客様をお連れする際は、事前にこちらへ連絡いただくのがルールになっているはずですが…お忘れですか?」 「そう堅いこと言わないでくれよ。この人はおかしな人じゃない。私が保証する」 「しかし…」 「彼は、九条財閥の次期当主、九条龍くんだ。ほら、身元は確かだろう?」 牧野がそう言った瞬間。 それまで威嚇するように細められていた男の目が、大きく見開かれる。 え…? 「…九条、の…」 「そうだよ。さあ、早く案内したまえ」 牧野が急かすと、男はどことなく困った顔になり。 「…オーナーに、確認いたします。こちらで、しばらくお待ちくださいませ」 そう言って、そそくさと正面にある階段下のドアの向こうへと消えた。 「なんだぁ?相変わらず、ケチ臭い店だなぁ~」 「…なにか俺、まずかったのか?」 「いえいえ、そうじゃなく。ここは、入店するのに事前審査がいるんですよ。ほら…ホストがみんなΩですから、万が一の事故があっちゃマズイってことなんでしょうけどね。けど、天下の九条財閥の若様なんだから、スルーで良いに決まってるじゃないですかねぇ。全く…」 「そう…なのか…」 本当にそれだけか…? なんか、俺について知ってるような素振りだったけど… ぶつぶつと文句を言い続ける牧野を見ながら、さっきの男の不自然な態度を思い出していると。 正面のドアが開いて、キチッとスーツを着た、小柄だがひどく体格の良い男が現れた。 「いらっしゃいませ、牧野様。お待たせして申し訳ございません」 「オーナーっ!これはどういうこと!?君の店は、九条財閥の若様を蔑ろにする気かい?」 深々と頭を下げたその男に、牧野が怒りの声をあげる。 「滅相もございません。石関が、大変失礼を致しました。…本日は、こちらには遊びで?」 「当たり前だろ!他になにするって言うんだ!」 「畏まりました。フロアへご案内いたします。どうぞ」 風貌に似合わぬ柔らかい物腰で、男が俺たちを階段へと導いた。 「…ったく…この非礼の落とし前は、どうしてくれるんだい?」 「申し訳ございません。お詫びに、今宵は私の奢りとさせていただきますので」 「あ、そう?それならいいけど」 牧野に詫びながら。 肩越し、俺を見た男の目は。 まるで俺を品定めするように鋭かった。

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