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猿喰鷲(さるくいわし)18 side蓮
「…うん…え?…いや、だから、忙しいならそっちの都合に合わせるから…え?…あ、そう…ならいいよ、もう…うん。じゃあね」
電話を終える気配がして。
俺は溜め息を吐きながら、モニターから目線を上げた。
「おまえね…プライベートな電話なら家でやれよ」
「だって、もしオッケー出たらすぐに日にち決めたいじゃん。また蓮さんに電話して、都合聞いて…なんて、まどろっこしいでしょ?」
「…どうせ、駄目だったんだろ?」
「うん。なんか、仕事が忙しいって。それならこっちが都合あわせるよって言ってんのにさ…なんか、煮え切らない返事ばっかでさ…もう何度目だよ、これ。せっかく帰ってきたのに、2年間結局一回も会ってないし」
和哉は、俺に負けじと大きな溜め息を吐きながら、応接用のソファにドサリと座り込んだ。
「…避けてる、よね。俺たちのこと…」
「俺たちじゃなくて、俺を、だろ?俺のことは抜きにして、二人で会おうって言えば春海だって承諾するだろ」
「…それは、やだ。せっかく蓮さんも帰ってきたのに」
「あいつは俺のことが嫌いなんだから、会いたくないのは当たり前だろ。無理やり会ったって、気まずいだけだ」
春海とは、12年前に生徒会室で揉めて以来、気まずくなり。
殆ど口をきかないまま俺がアメリカへ渡ったことで、そのまま連絡を取ることはなくなってしまった。
今にして思えば、若気の至りとしか言えない行動だが、あの時の俺は楓を守りたい気持ちと、楓がヒートを起こすきっかけを作った春海に腹が立って仕方ない気持ちがごちゃ混ぜになっていて。
きっと何度あの日に戻っても、同じことをするだろう。
だから、和哉がしつこく飲みに誘っても応じないのは、当然と言える。
「そう、かな…?あいつは俺と違って、心底人を嫌えるような奴じゃないよ。…龍が楓にあんなことしたってことがわかったって…その後もずっと、友だちでいられるんだからさ」
「…あんなこと?」
そのワードが不意にひっかかって、訊ねると。
ポーカーフェイスが上手い和哉には珍しく、しまった、という顔をした。
「あんなことって、なに?」
「あ、いや…その…」
言い逃れられないよう、目に力を籠めて見つめると。
怯えたように、視線を逸らせる。
「な、なんでもないよ」
「和哉」
声のトーンを下げると、ビクッと震える。
「…楓は、沖縄の学校に転校するのが嫌で、姿を消したんじゃないのか?」
「そ、それはそうだよ!」
「じゃあ、龍がやったあんなことって、なんだ」
「そ、それは…」
「言え」
短く命じると、観念したように息を吐き出して。
でも、視線は逸らしたまま、口を開いた。
「…無理やり、番にしようとしたんだって。だけど、抵抗されて、出ていっちゃったって」
「なんだと…?じゃあ、楓が姿を消したのは…」
龍から自分の身を守ろうとしたからだっていうのか
俺のために
「…っ…俺は…本物の馬鹿だな…」
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