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歌詠鳥(うたよみどり)2 side春海
「じゃあ始めるよ、ヒメちゃん。大丈夫?」
同僚の馬路がそう声をかけると、手首と足首を拘束具でベッドに繋がれ、多くの機械を身体中に付けられて横たわっている楓は、小さく頷いた。
「はい。いつでも」
馬路に目で合図され。
俺は、楓が着ている検査着の股間の部分に手を伸ばす。
「…ごめんね、ヒメ」
「だから…毎度毎度謝んなくていいってば」
困ったように眉を下げ、微かに唇を噛み締めて目を伏せるのを見ながら。
着ているものを下半身の部分だけはだけ、まだ小さく眠っているペニスを顕にした。
この役目だけは
どうしても俺にと
それがこの仕事を引き受けた
楓のたったひとつの要望だったから
Ω用発情抑制剤の治験者、ヒメ
それが今の楓の名前だ
「じゃあ、始めるね~」
馬路が若干呑気な声でそう言って。
少し硬い表情をした亮一が、注射器を取り出した。
針を左上腕部に刺すと、楓の顔が微かに歪む。
ゆっくりと液が楓の体内に入っていくのを、固唾を呑みながら見守った。
医療用の発情誘発剤を注入し終わると、みんなの視線はモニターへ。
映し出されるのは、楓のホルモン値。
この数値が上がってくると、楓は疑似ヒート状態に入る。
「…ぅ…ぁ…」
5分ほど待つと、楓が苦しそうに顔をしかめて。
ホルモン値が、急激な上昇を見せた。
「は…ぁっ…ぁっ…」
萎えていたペニスが、少しずつ勃ちあがってくる。
「あっ…ゃ…ぁっ…」
それまでだらりと力の抜けていた手足がモゾモゾと動き始め。
ベッドに備え付けられた拘束具が、ギシギシと音を立てた。
「あっ…んんっ…は、ぁっ…」
白磁のようだった肌が、薄いピンク色に染まっていく。
「…まだ?」
見ていられなくて、モニターを真剣に見つめる馬路に声をかけると。
「もうちょっと。焦んなさんな、藤沢くん」
軽い口調で、窘められた。
「あっ…あぁっ…あつ、いっ…」
額はもうすっかり汗ばんでいて。
ペニスは、もうすっかり勃起していた。
「や、ぁっ…も、はや、くぅっ…」
涙で潤んだ瞳で、楓が懇願する。
とてもとても
苦しそうに
「馬路っ…」
「わかってる。…よし、完全なヒート状態に入った。醍醐先生、お願いします」
「ああ」
馬路の指示で、亮一が白い錠剤を取り出した。
昨日出来上がったばかりの、薬だ。
「あっ、あ…やっ…くるしっ…」
「ヒメ~、今、楽にしてやるからな~」
「んっ…ぁ…りょ…いちさっ…はやくっ…はやく、だいてっ…」
まだ少し正気を保っているのか、亮一の名前を甘ったるい声で呼ぶ。
この瞬間が、実は一番堪える。
亮一に恋愛感情を抱いていないことはわかっているのに
君は必ず亮一を呼ぶ
αだというだけで
苦しいときに本能で呼ぶのは
決してβの俺ではないのだと
まざまざと見せつけられる
「うんうん、後でたーっぷり抱いてやるからな。とりあえず、お薬飲もうな?」
優しく髪を撫でながら、楓の口に白い錠剤を押し込む亮一から、思わず目を背けた。
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