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歌詠鳥(うたよみどり)3 side春海

「どう?」 「うーん…もうちょっと、効果が現れてもいい頃なんだけどなぁ…」 モニターを監視してる馬路が、難しい顔で顎にちょろりと生えた不精髭を弄る。 「そっか…」 ベッドの上の楓へと視線を移すと、虚ろな瞳で宙を見つめたまま、浅い息を繰り返していた。 額の汗はずっと流れ落ちてるし、頬は紅潮したままで、ペニスもずっと勃起したままだ。 「は…ぁっ…」 苦しそうに身を捩ろうとしても、拘束された身では殆ど動くことが出来なくて。 「あ…ぁ…ぃ、やっ…これ、やだぁっ…」 大粒の涙が、目尻を伝った瞬間。 モニターのホルモン値が、跳ね上がったのが見えた。 「や、ぁぁっ…」 悲鳴のような、声が上がる。 「ああ、ダメかぁ…」 「ヒメっ!」 「やだぁっ…とってっ…これ、とってぇっ…」 拘束具から逃れようと(もが)くたび、ガタガタとベッドが激しく揺れる。 「ほしいっ…ねぇっ…はやく、ほしいのっ…」 「おい、一旦外すぞ!あんまり錯乱がひどくなると、こいつはまた、自傷行為に走っちまう!」 「あー、はいはい、わかってますよ。その前に先生、血液だけ抜いてもらえます?藤沢くん、ヒメを押さえててね、危ないから」 焦って拘束を外そうとする亮一を、馬路はのんびりした口調で遮って。 空の注射器を手渡した。 「チッ…春海、しっかり押さえてろよ!」 「わかってる!」 「やっ…やだっ…これやだっ…」 「ヒメっ!ちょっとだけ我慢してっ!すぐ、亮一が楽にしてくれるからね」 ベッドに上り、全身で楓に覆い被さって、動きを止めると。 亮一がさっと手際よく血液を抜き取って、馬路に手渡した。 「これでいいか!」 「オッケーでっす。じゃ、ヒメちゃんをよろしくお願いしまっす」 馬路が頷いたのを確認し、二人で楓に付けられた機械と拘束を外すと。 「だいてっ…はやくっ…」 起き上がった楓は、俺をチラリとも見ることなく、亮一にすがりついた。 その光景に、ズキンと胸が痛みを訴える。 「わかった。向こう、行こう。な?」 「ん…」 αの亮一に抱き締められると、楓は少し落ち着いたようで。 「…キス、して…」 「…仰せの通りに。ヒメ」 亮一は、チラリと俺に申し訳なさそうな視線を送りつつ、楓の唇に自分のそれを重ねた。 「んっ…もっと、して…」 「わかってる。続きは向こうで。いっぱい、気持ちよくしてあげるから」 触れるだけのキスをほどいて、亮一が楓を抱き上げ、続き部屋のドアへと向かう。 その首に、楓の細くて白い腕が巻き付いたのを。 俺は息が詰まるほどの苦々しさを抱えながら、見つめていた。

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