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雲雀(ひばり)9 side蓮

ぐわんぐわんと ひどい耳鳴りがする 『ごめんね…』 そのなかに混じる おまえの消え入りそうな声 「…なんだ、それ…なんの話だ…龍に無理やり中絶って、なんだっ…!」 『…知らないの?龍から…和哉から、なにも聞いてないの…?』 「…知らない…そんなこと、知らないっ…!」 全身が、ガタガタと震える。 怒りとも憎しみとも苦しみとも哀しみともつかない激情が身体の中心で渦を巻いて。 奥歯がガチガチと嫌な音を立てる。 『…12年前、楓は妊娠してた。おまえの子どもだ。だけど、龍が楓を薬で眠らせて、眠ってる間に堕胎手術をしたって…』 「くそっ!!!」 思わず、持ってた携帯を叩き壊そうと振りかぶって。 すんでのところで思い止まった。 落ち着け 落ち着け 落ち着け 今はそんなことに心を乱してる場合じゃない 楓を探さなければ 「…とにかく、今は楓を探すのが先だ。詳しいことは、楓を見つけてから話してもらうぞ。おまえ、あいつが行きそうなところ検討つくだろっ!楓はどこにいった!?」 呪文のように頭の中で唱えながら。 握り締めた爪の先が手のひらに食い込む痛みに、辛うじて正気を繋ぎ止める。 『わかんない…わかんないよっ…!』 「おまえ、一緒に暮らしてたんだろうがっ!」 『そうだけどっ…俺にはわかんないっ…』 「春海っ!この馬鹿野郎っ…」 『蓮ならわかるだろっ!?きっと、おまえとの思い出の場所だよっ!楓は、ずっとおまえだけを愛してた。なにがあっても、ずっと。ヒートのとき、ただおまえの名前を呼びながら泣き叫んでた。蓮くん助けてって。だから、行くところがあるとしたら、おまえに繋がる場所しかないよっ!きっと、12年前もそこへ行こうとしてたんだ!たった一人で…おまえの面影だけを追いかけてっ…』 その時。 頭の中に広がった景色。 二人で見た あの美しい海 おまえの美しい微笑み 「…江ノ島だ…」 『え…?』 「引き離される前、二人だけで行った。楓は、すごく幸せそうに笑ってた…」 言い終わる前に、足は勝手に駆け出していた。 『そこだよっ!俺も、そっち向かう!』 「いや、おまえは他の可能性を当たってくれ。外れていたら、取り返しがつかなくなる」 『…わかった。俺、楓がお世話になった店のオーナーを当たってみる!』 「頼む。なにかあったら、すぐに連絡を」 部屋を飛び出し、電話を切り。 「あ、蓮さん」 地下駐車場へ向かって廊下を走っていると、前から和哉の声が飛んできて。 「さっき、春から連絡あって、蓮さんの番号教えろって言われて…なんか、すんごい剣幕だったからつい教えちゃったんだけど…連絡きた?」 澄ました顔で近付いてくる姿に、目の前が怒りで真っ赤に染まる。 「…蓮さん?なんかあったの…?」 思わず拳を振り上げそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪えた。 殴るのは、後だ 今はそんなことしてる時間はない 「蓮、さん…?」 恐ろしいものを見たように、一瞬で顔をひきつらせた和哉を押し退けて。 俺は走り出す。 「ちょっ…どこいくのっ!?仕事はっ!?」 振り返ることは、しなかった。

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