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雲雀(ひばり)11 side蓮

「楓っ!!」 海へ向かう背中を遠くで見つけた瞬間。 背筋が凍った。 「楓っ!!やめろっ!!」 叫んでも、振り向かずにまっすぐ海へと歩いていく。 迷いのない足取りで。 おまえの父親が命を絶った 紺碧の海へと 「楓っ!!」 飛んでって、その足を止めたいのに。 足は思うように前に進まない。 「楓っ!!楓っ!!」 呼んでも届かない。 ただなにかに操られるように。 海へと向かっていく。 「楓っ!!ダメだっ!!」 諒おじさんっ… 楓を連れていかないでくれっ…… 「楓ぇっっっ!!!」 真っ白な天使が その翼を広げ 空へと飛び立とうとした その瞬間 祈るような気持ちで伸ばした手が 翼に触れて 無我夢中でそれを手繰り寄せると 腕の中に 天使が落ちてきた 「楓っ…!」 もろともに倒れ込んだ瞬間、ゴツゴツとした岩に強かに背中を打ち付けて。 激しい痛みが、全身を駆け抜けた。 だけど、そんな痛みなんてどうでもよかった。 腕の中に抱いた確かな温もりが、教えてくれた。 俺は間に合ったのだと 「楓っ…楓…」 もう二度と飛び立てないように、強く強く抱き締める。 「楓、行くな…俺を置いていかないでくれ…」 胸いっぱいに広がる梔子の香りに、安堵とも喜びともつかない感情が沸き上がり。 海風になびく長い髪に、顔を埋めると。 「…はな、して…」 腕の中の天使が、低く呻いた。 「はな、してっ…離してよっ…離せっ…!」 おとなしく腕の中に抱かれていた楓が、突然手足をバタつかせて暴れだす。 「楓っ!?」 「離せっ…やだっ…もう、やだっ…」 虚ろに開かれた瞳には、漆黒の闇しかなくて。 「…もう、やだ…いや…」 苦しみの結晶のような大粒の涙が、ボロボロと零れた。 「…会いたい…お父さんに、会いたい…」 それは あの日のおまえ 諒おじさんに置き去りにされ 庭でひとり 還らぬ人を待っていたおまえ 『おとうさんに、あいたい…どうして、むかえにきてくれないの…?…さみしいよ…ひとりぼっちはやだ…』 何日も何週間も何ヵ月も そうやって泣いて どんなに宥めても 大好きだったおもちゃやおかしを差し出しても 泣いてばかりいて 困りきった俺は あの日 なんと言った…? 「…わかった」 ああ そうだ 簡単なことじゃないか 「だったら、一緒にいこう」 おまえは俺の魂の片割れ もう決して手離すことは出来ない だったら 「二人で、諒おじさんに会いにいこう」 おまえの行きたい場所へ 俺がついていけばいいだけのことだ 「会って…俺がおじさんに謝るよ。だから、おまえはただ、おじさんに抱き締めてもらえばいい」 どこまでも共に そこがどこだろうと おまえのいる場所が俺の世界の全てなんだ

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