240 / 566
雲雀(ひばり)12 side蓮
暴れるのをピタリと止め。
腕の中で顔を上げた楓は、恐怖に歪んだ瞳で俺を見つめた。
「…なに…言ってるの…?だめだよ、そんなのっ…」
「楓…」
「だめ…だめだっ…!蓮くんは、俺と一緒にいちゃいけないっ…」
「もう、離さないっ!」
駄々っ子のようにまた暴れるのを、強く抱き締めて叫ぶと。
また、ビクッと震えて動きを止める。
「もう二度と、離さない。だから、おまえがいくと言うなら俺もいく」
俺の魂の半身
命よりも大切な愛しい魂
「離れていても、おまえがこの世界にいるとわかっていたから、俺は生きてこられた。いつかおまえに会うために…会ったとき、おまえに相応しいαであるためだけに、俺は今まで必死に生きてきた。おまえがいない世界なら、俺がそこにいる意味なんかない」
その魂に縋っているのは
俺の方だ
おまえがいないと生きていけないのは
俺の方なんだ
おまえこそ
俺の光
俺が俺であるための
天から与えられた唯一無二の光だ
「だから、連れていけ。おまえの望むところへ。俺も、一緒に」
「…だめ…」
一度止まったはずの涙がまた、溢れる。
俺は今まで
どれだけおまえを一人で泣かせてきたんだろう
「もう離れない。なにがあっても、おまえを離さない」
俺に出来る償いは
この先ずっと側にいて
おまえの涙を拭ってやることだけ
だから行こう
どこまでも
たとえ行き着く先が地獄の底でも
そこにおまえがいてくれればそれだけでいい
「だめっ…蓮くん、だめっ…」
「これからは、なにがあっても一緒だ」
「だめだよ、蓮くんっ!俺はっ…君に許してもらえないことをした…」
「…子どものことか?」
楓の瞳が、恐怖に戦くように大きく見開かれた。
「…蓮くん…知って…」
「おまえの責任じゃない。全ては俺の責任だ。あの時おまえを…おまえと子どもを守れなかったのは、全部俺に責任がある。だから…二人で会いに行こう。二人で、たくさん抱いてやろう。俺とおまえの子どもだろう?俺も、その子に会いたいよ」
そっと髪を撫でてやると、拒絶するように頭を激しく振る。
「だめっ!だめ、だめ、だめっ…蓮くんは、俺と一緒にいっちゃだめなんだっ…!あの子を守れなかったのは、俺なんだからっ…」
「違う!おまえのせいじゃない!」
「全部、俺がっ…俺が、Ωなんかじゃなかったらっ…」
その時、突然ぐにゃりと表情が歪んで。
楓の喉が、ひゅうっと奇妙な音を立てた。
「っ…ぁ、あっ…」
開いた唇からは、ヒューヒューと不快な音が聞こえ、両手が苦し気に喉を掻き毟る。
「楓っ…!?」
「ぁっ…う、ぁっ…」
過呼吸か…!?
「楓っ!しっかりしろ!楓っ!」
「ぁ…ぁ、ぅっ…」
「大丈夫。ゆっくり息を吐いて。大丈夫、大丈夫だから…」
落ち着かせるために背中を擦ってやると、苦し気にしながらも逃れるように身を捩って。
「はっ…はっ…れん…く…だ、め…」
苦し気な息の下から再び拒絶の言葉を発すると。
そのまま意識を手離した。
「楓っっっっ!!」
ともだちにシェアしよう!