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雲雀(ひばり)12 side蓮

暴れるのをピタリと止め。 腕の中で顔を上げた楓は、恐怖に歪んだ瞳で俺を見つめた。 「…なに…言ってるの…?だめだよ、そんなのっ…」 「楓…」 「だめ…だめだっ…!蓮くんは、俺と一緒にいちゃいけないっ…」 「もう、離さないっ!」 駄々っ子のようにまた暴れるのを、強く抱き締めて叫ぶと。 また、ビクッと震えて動きを止める。 「もう二度と、離さない。だから、おまえがいくと言うなら俺もいく」 俺の魂の半身 命よりも大切な愛しい魂 「離れていても、おまえがこの世界にいるとわかっていたから、俺は生きてこられた。いつかおまえに会うために…会ったとき、おまえに相応しいαであるためだけに、俺は今まで必死に生きてきた。おまえがいない世界なら、俺がそこにいる意味なんかない」 その魂に縋っているのは 俺の方だ おまえがいないと生きていけないのは 俺の方なんだ おまえこそ 俺の光 俺が俺であるための 天から与えられた唯一無二の光だ 「だから、連れていけ。おまえの望むところへ。俺も、一緒に」 「…だめ…」 一度止まったはずの涙がまた、溢れる。 俺は今まで どれだけおまえを一人で泣かせてきたんだろう 「もう離れない。なにがあっても、おまえを離さない」 俺に出来る償いは この先ずっと側にいて おまえの涙を拭ってやることだけ だから行こう どこまでも たとえ行き着く先が地獄の底でも そこにおまえがいてくれればそれだけでいい 「だめっ…蓮くん、だめっ…」 「これからは、なにがあっても一緒だ」 「だめだよ、蓮くんっ!俺はっ…君に許してもらえないことをした…」 「…子どものことか?」 楓の瞳が、恐怖に戦くように大きく見開かれた。 「…蓮くん…知って…」 「おまえの責任じゃない。全ては俺の責任だ。あの時おまえを…おまえと子どもを守れなかったのは、全部俺に責任がある。だから…二人で会いに行こう。二人で、たくさん抱いてやろう。俺とおまえの子どもだろう?俺も、その子に会いたいよ」 そっと髪を撫でてやると、拒絶するように頭を激しく振る。 「だめっ!だめ、だめ、だめっ…蓮くんは、俺と一緒にいっちゃだめなんだっ…!あの子を守れなかったのは、俺なんだからっ…」 「違う!おまえのせいじゃない!」 「全部、俺がっ…俺が、Ωなんかじゃなかったらっ…」 その時、突然ぐにゃりと表情が歪んで。 楓の喉が、ひゅうっと奇妙な音を立てた。 「っ…ぁ、あっ…」 開いた唇からは、ヒューヒューと不快な音が聞こえ、両手が苦し気に喉を掻き毟る。 「楓っ…!?」 「ぁっ…う、ぁっ…」 過呼吸か…!? 「楓っ!しっかりしろ!楓っ!」 「ぁ…ぁ、ぅっ…」 「大丈夫。ゆっくり息を吐いて。大丈夫、大丈夫だから…」 落ち着かせるために背中を擦ってやると、苦し気にしながらも逃れるように身を捩って。 「はっ…はっ…れん…く…だ、め…」 苦し気な息の下から再び拒絶の言葉を発すると。 そのまま意識を手離した。 「楓っっっっ!!」

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