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雲雀(ひばり)18 side蓮

「情けねぇな…」 楓の病室へ那智さんと二人で戻り、眠り続ける楓の顔を二人で並んで眺めていると。 ぽつりと、那智さんが呟いた。 「10年近く側にいて、誰よりもこいつのことわかってると思ってたんだけど…結局、全然わかってなかったってことだよな…」 自嘲気味の言葉に、思わずその背中に手を添える。 「それは、俺の方です。幼い頃からずっと側にいて、ずっとその笑顔を見続けてきて。ましてや、俺は楓の運命なのに。俺は、わかってるつもりになっただけで、本当は楓のことを全然わかってなかった」 「…おまえは、αだろ。Ωのことがわかんないのは、当然だ」 だけど、ピシャリと突き放すように言われて。 言葉に詰まると、那智さんはふっと微笑んだ。 「わかってようがわかってなかろうが、そんなのどっちでもいいんだよ。こいつを幸せに出来るのは、おまえしかいないんだから」 そうして、優しい眼差しで眠る楓を見つめる。 「…ずっと、おまえの名前だけを呼んでたよ。ヒートに侵されてワケわかんなくなって、自分で自分を傷付けながら、蓮くん助けてって…こいつの魂は、おまえだけを求めてた。どんな素晴らしいαでもダメなんだ。おまえしかいないんだよ。運命の番ってのは、そういうもんだ」 やけに実感の籠った声音に、その横顔をまじまじと見ていると。 俺の視線に気付いたのか、顔を上げ。 突然、揶揄うような光をその瞳に乗せた。 「ま、おまえが今度また柊を泣かせたら、そんときはとびっきり優秀なαに譲ってもらうけどな。あいつを番にしたい御仁は、うじゃうじゃいる。大臣クラスのな」 その言葉に、不意に伊織さんの顔が浮かんで。 カチリと、パズルのピースがはまった音がした。 …なるほど どうりで聞き覚えのある名前だと思った やっぱりそうだったのか あの時伊織さんは 全部わかってて俺にあえて楓の話をしたんだな 「…敵に塩を送るなんて、あの人も大概お人好しだな…」 「え?なんて?」 「なんでも。斎藤伊織には、渡しませんよ」 「なんでそれを!?」 「前に、どうしても番にしたかったΩがいるって話を聞いたんですけど、今初めてそれが楓のことだってわかりました」 「話って、知り合いか!?」 「友人です。月に一度はサシで飲みに行きますよ」 「…世の中、どこで繋がってるかわかんねぇな…」 呆然と呟いた那智さんに、少し反撃出来たのが楽しくて。 思わず頬を緩めると、彼も顔を綻ばせる。 「なぁ、柊は子どもの頃どんなだった?やっぱ泣き虫だった?」 「そりゃあもう。うちに引き取られた時は、3ヶ月くらい毎日泣いてましたよ」 「ははっ…やっぱそうか」 「今でも?」 「ああ。すーぐ泣いてるよ。でも、泣き虫で弱っちそうなくせに、変なとこ頑固でさ」 「昔からそうですよ」 「…聞かせてくれよ。あんたしか知らない、柊の話」 優しい眼差しに、頷いて。 眠る楓の側で俺たちは、楓のことを夜通し語り合った。

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