251 / 566

雲雀(ひばり)23 side蓮

「お店のみんなは、元気?」 「ああ。みんな元気だよ。飛鷹とまひろは番になるαが見つかって辞めてったけど、後はみんな相変わらずだ。新人も、5人も入ったしな」 「そっか…志摩は?どうしてる?もう、お客さんはついてるんでしょ?」 「まぁ、な…」 「今度会いたいな」 「…まぁ、そのうち連れてきてやるよ」 穏やかに話をする二人を、病室の隅で黙って見守ってると。 「蓮、ちょっと」 小声で亮一に外に出るように促され、俺は楓に気付かれないようにそっと部屋を抜け出した。 「全く…どうなるかと思ったけど…とんだ荒治療だったなぁ。俺じゃ、あれは言えなかった。やっぱ、Ω同士だから、心の深い部分までわかるのかもな」 「確かに」 肩を並べて歩きながら、顔を見合わせて。 どちらからともなく、笑いが込み上げた。 そのまま、カウンセリング室に通されて、向かい合わせに座るように指示される。 「で、今後のことなんだけど」 前置きもなく、話を切り出されて。 俺は背筋を伸ばした。 「心肺機能の方は、2週間でかなり回復してる。しばらくは投薬治療が必要だけど、通院で対応できる。副反応は、一時的なものだったと考えていいと思う」 亮一は、持っていたタブレットで楓のカルテをチェックしながら、そう言った。 「本当ですか?よかった…」 「問題は、C-PTSDの治療の方なんだけど。うちの病院では、今現在対応できる医師がいなくてね。でも、先日言っていた友人の精神科医をうちで引き抜く話がようやくまとまって、3ヶ月程先になるけど、精神科を含むΩ診療科を開局することになったんだ。それまでは、そいつと相談しながら俺がカウンセリングすることになるけど…それでもいいかな?嫌だと言うなら他の病院を紹介するけど、日本ではΩ心理学に明るい医者はまだ少ないから…」 「いえ。楓を任せられるのは、亮一先生しかいないので。よろしくお願いします」 頭を下げると、亮一は鷹揚に頷く。 「これはまだ、本人に打診中なんだけど…誉先生にも、来てもらいたいと思ってる。あの人、専門的に勉強したことないからって遠慮してるけど、あの経験値は相当な戦力になるからね。そうなれば、楓はもっと安心して通えるだろ?」 「ええ。とても」 「うん。だったら、頑張って口説き落とすよ。今度は、柊の時みたいに失敗できないなぁ」 そう言って、歯を見せて笑った亮一を見て。 チクリと、胸が微かに痛みを感じた。 もしかしたら この人も楓のことを…… 「退院後は、どうする?春海と話してるんだろ?」 「一緒に暮らすつもりです。もちろん、楓がいいと言うなら、ですけど…」 「いや、無理やりにでも一緒に住むべきだね。そこはα特有の強引さで押し通しなよ。君の欠点は、押しの弱さだ。最も、それは楓限定なんだろうけど」 「…わかりました」 「新居は?今の家を?」 「そのつもりでしたけど…」 「新しい家を、用意した方がいい。出来れば、家具なんかも全部。誰かの匂いのついていない、新しいものをね。手配は、全部春海に任せるといいよ。あいつなら、今の楓の好みもわかってるしね」 その瞳は、愛しいΩを思う慈愛に溢れているように、見えた。 一頻り話を終え、カウンセリング室を出ると。 目の前の廊下に、那智さんが窓に背中を預けて立っていた。 「どうしたんですか?楓に、なにか…」 「いや、違くて…」 俺の姿を見ると、組んでいた腕を解き。 すぐ側まで歩み寄ると、耳元へ顔を近付けてくる。 「おまえ…九条の家に戻ったりするのか?」 「え?」 思ってもいなかった質問に、反射的にその表情を窺うと。 やけに真剣な眼差しが、差した。 「これから先、九条の家に戻る可能性はあるのか?」 「いえ…俺はあの家を捨てた人間ですし、それはありえませんけど…なにか?」 「いや…実は、な…」

ともだちにシェアしよう!