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菊戴(キクイタダキ)1 side志摩
一ヶ月前───────
「志摩、指名だよ。3番テーブル」
「はーい」
振り向いて、3番テーブルへと視線を向けると、待っていた人を見つけて。
僕は急ぎ足で向かった。
「いらっしゃいませ、九条様。お待ちしておりました。ご指名、ありがとうございます!」
精一杯の笑顔を作って、挨拶をすると。
龍さんは優しく微笑んで、会釈をしてくれる。
やった!
今日は機嫌が良さそう!
「今日も元気だな、志摩は」
「はい!お隣、座ってもいいですか?」
「もちろん。どうぞ」
「失礼します!」
本当は柊さんみたいに優雅に…を目指してたんだけど、前にいらっしゃった時、志摩が元気だと自分も元気になれる気がするって、そうおっしゃってくれたから。
僕は龍さんの前では、いつもの僕らしく明るく振る舞うことにした。
僕の取り柄って、元気なとこしかないから。
「今日は、なにになさいますか?」
「そうだなぁ…ジントニックをもらおうかな」
「カクテル、お珍しいですね」
「実は、さっきまで取引先と接待でね。ビールや日本酒は十分飲んだから、軽いものが欲しいんだ」
「もうお飲みになったんですか?だったら、どうしてこちらへ?」
「もちろん、愛らしい志摩の顔を見たかったからに決まってるよ」
テレビドラマでしか聞いたことないような、キザなセリフをさらりと言われて。
顔が、ボンっと火を噴いたように熱くなる。
「あ、お、お、お酒っ!持ってきますねっ!」
たぶん茹でダコみたいに真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて、慌てて立ち上がると。
「志摩の分のオレンジジュースも、忘れずにな」
クスクスと楽しそうな笑いつきの声が、追いかけてきた。
龍さんって
なんであんな恥ずかしいことさらっと言えるんだろう?
誰にでも、あんなこと言うのかな?
…きっと言うよね
誰でも知ってるような大きな会社の跡継ぎさんだもん
きっと相手なんて沢山いるだろうし
遊び慣れてるんだろうな…
僕だけじゃないんだ
ちくんと胸が痛みを感じたけど。
気が付かなかったことにする。
僕は龍さんが疲れたときにちょっとだけ寄り道できる
オアシスみたいな存在
それだけでいいんだから
そうじゃなくちゃ
僕なんて相手にされないんだから
「ほら、出来たぞ」
呪文みたいに、何度も自分に言い聞かせながら待ってると。
目の前に隆志さんが出来上がったカクテルとオレンジジュースを置いた。
「あ、ありがとうございますっ」
「…志摩、顔」
受け取ろうとすると、ペシと軽く頬を叩かれる。
「え…」
「笑顔、な?」
そう言われて、初めて顔の筋肉が強張ってたのに気付いて。
「はいっ!ありがとうございますっ!」
自分の両手で、思いっきり頬を叩いて気合いを入れ直すと、龍さんの元へと急いだ。
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