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菊戴(キクイタダキ)2 side志摩

「お待たせしましたっ!」 テーブルへ戻ると、難しい顔でスマホを見てた龍さんが顔を上げ。 優しく微笑んで、自分のすぐ横をポンポンと叩いた。 「なにか、お仕事で困ったことでも?」 そこへ腰を下ろし、飲み物を手渡すと。 「いや、なんでもないよ。それより乾杯しよう。これから始まる俺と志摩の、素敵な夜に」 龍さんが、またキザなセリフを言って。 僕がまたまた顔を熱くしてたら、持ってたジュースの入ったグラスに、カクテルグラスがカチリと音を立てて合わさった。 「志摩は、いつ成人なんだっけ?」 「来年の6月です」 「じゃあ、来年になれば一緒に酒が飲めるな。楽しみだな。志摩はお酒に弱そうだから、ふにゃふにゃになって俺に甘えてくるところ、見てみたい」 「そ、そんなことしませんっ!それに、僕も九条様みたいに強いかもしれないじゃないですか!」 ムキになって反論しながら、「来年も」って言葉にドキドキする。 来年も ここに通ってくれるってこと、だよね? 「そう?強くはなさそうだなぁ」 楽しそうに目を細めた龍さんの手が、僕の腰を掴んで。 ぐっと引き寄せられる。 「酔った志摩、きっとすごく可愛いと思うよ」 耳元で、甘い声で囁かれて。 バクンッと心臓が跳ねた。 龍さんの纏う、カモミールみたいな爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐる。 「あ、あのっ…九条さまっ…」 「龍さん、だろ?…志摩のフェロモン、すごく甘い匂いだな…」 僕の首に顔を寄せ、くんくんと項の匂いを嗅いで。 また甘い声で囁く。 熱い息が首にかかる度、チョーカーに守られた項がビリビリと痺れる。 「すごく、美味しそうだ」 その言葉に、ぞくぞくっと全身が震えた。 内臓の奥の方から、感じたことのない熱いなにかが沸き上がってくる。 「…食べてもいいかな?」 「た、食べてっ…て…?」 「今夜…志摩を食べたい」 「そ…れっ、て…」 僕を見つめる瞳は、獲物を捕らえたライオンみたいにギラギラと光っていて。 恐ろしいはずのその鋭い眼差しに、なぜかドキドキと胸が高鳴っていく。 「アフター、どう?」 誘われたのは、初めてで。 身体が震えた 「…ぼ、僕で…いいんですか…?」 その震えを移したような、情けない声しか出なかったけど。 龍さんの目が、嬉しそうに細められる。 「志摩が、いい。おまえを、抱きたい」 はっきりと告げられた言葉に。 また熱いなにかが、全身を駆け抜けていった。

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