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菊戴(キクイタダキ)4 side志摩
「こっちへおいで」
シャワーを浴びて出てくると。
ソファに座り、ブランデーグラスを傾けていた龍さんに手招きされた。
「は、はいっ…」
真っ白なバスローブに身を包んで、いつものピンと張り詰めたオーラを緩めた姿に、すごくドキドキしながら、その隣に浅く腰かける。
「…緊張してる?」
「ひゃぁっ…」
ふっと耳に息を吹きかけられて、飛び上がった。
「ふっ…可愛いな。もしかして、初めて?」
腰に手を回され、ぐっと引き寄せられて。
顔が火照り、心臓の音が煩くなる。
「は、初めて…では、ないですけど…ひ、久しぶり、で…」
「そうなの?でも、震えてる」
包み込むように、手を握られた。
「大丈夫。気持ちよくしてあげる。俺に、全部預けて…」
甘い声を吐く赤い唇が、ゆっくりと近付いてきて。
誘われるように目蓋を落とすと、熱くて柔らかいのがゆっくりと重なった。
「んっ…」
その瞬間、過去の忌まわしい記憶が頭の隅を過って。
反射的に身体を離そうとすると、腰を掴んでた腕が阻止するように強く引き寄せる。
同時に、ぬるりと濡れた舌が強引に僕の唇を割って入ってきた。
「んんっ…」
深く差し込まれ、呼吸も奪われそうなほどの激しさでかき混ぜられて。
苦しさに身を捩ろうとしても、更に強い力で押さえつけられて。
初めての情熱的で激しい大人のキスに、ただ翻弄されるだけで。
思う存分、僕の中を蹂躙した龍さんの唇が離れる頃には、酸欠でふらふらで、まともに思考する気力なんて残ってなかった。
「ふっ…これくらいでギブアップか?」
耳元で囁かれるたび、身体が勝手にぴくっと動く。
「キスは、下手だな。本当に初めてじゃないのか?」
「あっ…」
熱い唇が首筋を這うと、ぞくぞくが大きくなる。
「あっ…は、ぁっ…」
チョーカーの隙間から、項を舐められて。
突然、身体の奥から熱いものがぶわっと溢れてきた。
「あぁぁっ…!」
この感覚っ…
まさか、ヒートっ!?
まだあと2週間あるはずなのにっ…
「やっ…待ってっ!ちょっと、待ってくださいっ!」
僕は精一杯の力で龍さんを押し退けると、部屋の隅に置いてあった鞄を取ろうと立ち上がった。
抑制剤、飲まなきゃっ…
だけど。
強い力で手首を掴まれて。
そのまま引き摺り倒すようにソファに沈んだ。
「逃げるな」
聞いたことない低い声が、響いて。
反射的に瞑ってしまった目を開くと、今にも俺を食べようとする猛獣の瞳が、ギラギラと輝いていた。
「りゅ、う…さ…」
「…おまえは、俺の獲物だ」
恐ろしいはずの言葉に、身体が更に熱くなる。
「やっ…」
「…すごい匂いだな。美味そうだ…」
興奮した猛獣の瞳が近付いてきて。
唇に、噛みつかれた。
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