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菊戴(キクイタダキ)7 side志摩

しばらく店を休むことにした。 今は、龍さんの顔を見るのが辛い。 それなのに、また店に来ると言ったあの言葉に縋って、あの人を待ってしまいそうだったから。 僕の申し出に、那智さんは優しい顔で頷いて。 少しの間、診療所で寝泊まりしながら誉先生の手伝いをして欲しいと言ってくれた。 それなら、お給料も払えるし、って。 そのさりげない優しさに、また涙が溢れて。 那智さんはそんな僕の頭を撫でながら、「柊に憧れすぎて、あいつの泣き虫まで移ったんじゃねぇのか?」って笑った。 診療所の受付や、簡単な傷の手当てなんかを手伝いながら、少しずつ悲しみが薄らいできた、ある日。 朝から熱っぽさと怠さで、起き上がることが出来なかった。 「大丈夫か?」 「ごめんなさい。風邪だと思うんで、お薬もらえますか?」 布団から起き上がれないまま、そう言うと。 那智さんはしばらく難しい顔で考え込んでいて。 やがて、台所から紙コップを持ってきた。 「これに、おしっこ採ってこい」 「へ…?どうして…?」 「いいから」 無理やり押し付けられたそれを持って、トイレにいって。 渡すと、那智さんは診療所の方に持っていき、程なくして誉先生と二人で戻ってきた。 ひどく、硬い表情で。 「志摩…落ち着いて、聞いて」 先生が、布団の上に座った僕の前に膝をつき、そっと手を握る。 「君は、妊娠してる」 「…え…?」 真剣な眼差しに、息が止まった。 妊娠…? 僕が…? 「相手は、九条さんだね?」 訊ねられたけど、先生の言葉がぐるぐる頭で回ってて、頷くことが出来ない。 「君に持たせておいたアフターピルが使われた形跡がなかったから、たぶんこうなるだろうと思っていたけど…」 「…にんしんっ、て…なんですか…?赤ちゃんが、いるってこと…ですか…?」 「そうだよ。九条さんとの子どもが、君のお腹の中に…ここにいるんだ」 混乱と動揺で、頭がうまく動かない僕のお腹に、先生のあったかい手が触れて。 ふわりとお腹が熱くなったと同時に、唐突に理解した。 赤ちゃん… 龍さんの赤ちゃんが、ここに… 恐る恐る自分の手を当ててみると、そこはいつも通りのなんの変哲もない、ぺったんこなお腹だったけど。 でも、ここに、僕じゃない新しい命がいるんだって思うだけで、なんだか胸がいっぱいになって。 堪える間もなく、涙が溢れた。 「志摩っ…」 誉先生の後ろで静かに僕を見守ってた那智さんが、大股で近付いてくると、僕をぎゅっと抱き締める。 「大丈夫だ!俺が、なんとかしてやる!あいつがなんと言おうと、おまえは俺が絶対守るからっ!」

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