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大瑠璃(おおるり)3 side蓮

風呂に入り、ソファでゆったりと本を読んでいると。 入れ違いに風呂に入ってた楓が戻ってきて、俺の隣に座り、ぴたりと身体を密着させてきた。 バスローブ一枚羽織っただけの身体は、ほんのり熱く。 ボディーソープの香りに混じって、微かに甘い香りがして。 ドクン、と。 下半身が熱を持つ。 「楓…?どうした…?」 それを悟らせないように頬を引き締め、その表情を伺おうと覗き込んでも、俺の腕に顔を押し当てて隠してしまって。 「楓…?」 戸惑いながらも、そっと抱き寄せると。 「…蓮くん…抱いて…」 ふわりと辺りに広がった花の香りと共に、甘やかな誘いが鼓膜を揺らした。 一緒に暮らし始めてから、同じベッドで寝て。 ハグや軽いキスなんかは頻繁にしたけれど、それ以上にはまだ進んでいなかった。 亮一に、楓の身体はまだ完全に回復したわけじゃないから、ヒート以外ではそういう行為はまだ控えて欲しいと言われていたことと。 それ以上に、楓がなんとなくその先に進むことを避けているように感じたから。 楓の負った傷の深さを思えば、それは仕方のないことだと思う。 恐らくまだ、自分は穢れていると、そう思い込んでいるのだろうから。 離れていた間のことを。 気にならないと言えば嘘になる。 亮一も、誉先生も。 そしてたぶん、伊織も。 その他にも、俺の知らない多くの男が。 俺の楓を抱いたんだと思うと、それだけで嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。 けれど今は、俺のくだらない嫉妬で、楓を傷付けるわけにはいかない。 身も心もボロボロの楓を、これ以上追い詰めるわけにはいかない。 全ての元凶は、俺にあるのだから。 俺に出来る償いは。 楓の傷の痛みを少しでも和らげてやること。 楓が俺を愛してくれる限り、傍にいてその震える魂を凍えないように包んでやること。 そうしていつか、その傷の痛みを感じないようになる日が訪れて。 楓が心から笑えるようになったその時に。 身も心も愛し合えたらと。 そう、思っていたけれど。 「…やっぱり、いや…?こんな俺…嫌、だよね…」 俺が黙り込んだのを拒否だと誤解した楓が、焦って身体を離そうとするから。 俺は腕に力を入れて、ひょいとその軽い身体を抱き上げ、膝の上に乗せた。 「好きだよ」 頬を両手で包んで上げさせ、まっすぐに目を見つめながら、思いを伝える。 「どんな楓だって、大好きだ。愛してる」 「蓮、くん…」 楔を打ち込むように、何度も。 楓の瞳は、ひどく不安気にゆらゆらと揺れていた。 フェロモンの匂いが 微かだけど昨日よりも強くなっている たぶんヒートが近いんだろう だから不安定になっているのかもしれない 「俺は、いつだって楓が欲しいよ」 はっきりと言葉にすると、自分から誘ったはずなのに、動揺したように目が泳ぐ。 「…怖かったり、嫌だったりしたら、すぐに言って?拒否したからって、嫌いになったりしない。俺の心は、なにがあっても変わらない。楓だけを、愛してる」 子どもに言い聞かすように、何度も繰り返しながら。 うるうると潤み始めた瞳に唇を寄せた。 受け入れるようにそっと目蓋を落とした拍子に零れた涙を見ながら、その目蓋にキスをする。 「愛してる。これから先も、ずっと。楓だけを愛してるよ」 目蓋に、頬に、鼻の頭にキスをして。 微かに震える唇に、キスをすると。 ふるっと震えた楓は、強く俺にしがみついてきた。 「俺、も…蓮くんを、愛してる…」

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