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大瑠璃(おおるり)10 side志摩
コインパーキングに車を止め。
龍さんが最初に連れてきてくれたのは、紳士服の高級ブランドのお店だった。
「九条様。お待ちしておりました」
僕たちが店に入ると、奥の方から店長っぽい人が小走りで近付いてくる。
「ああ。この子だ。頼む」
「畏まりました。どうぞこちらへ」
短いやり取りのあと、僕は店の奥にある個室へと連れていかれた。
そこには何着かのスーツが、ハンガーにかかった状態でディスプレイされていた。
どれもこれも、明らかにすごーく高そうなスーツ。
「お客様のお好みはございますか?お色とか、柄とか」
龍さんが着たらカッコいいだろうなぁ、なんてぼんやりとそれを眺めていたら、店長さんにそう聞かれて。
「え!?ぼ、僕ですか!?」
思わず飛び上がっちゃった。
「ええ。お客様でございますよ?」
「え、いや、ぼ、僕は、そのっ…」
予想もしてなかった事態に、助けを求めるために龍さんへ視線を向けると。
いつの間にか応接セットに座った龍さんは、優雅にコーヒーを飲みながら、肩を竦める。
「おまえのスーツだ。自分の好きなものにするといい」
「え!?いや、でも…僕、スーツなんて着たことないので…」
つい、語尾が小さくなってしまうと、龍さんは大きな溜め息を吐いて立ち上がり。
飾られてるスーツを一通り眺めたあと、迷うことなくグレーのスーツと、紺色のスーツを手にとって、僕のもとへやってきた。
「うーん…こっちだな」
そうして、それを交互に僕に当てて。
紺色のスーツの方で、大きく頷く。
「これを、今日のディナーまでにこの子に合うように仕立て直してくれ」
「はい、畏まりました。では、失礼いたします」
店長さんはそのスーツを受け取って、おもむろに僕の服を脱がせ始めた。
「え、ちょ、ちょっと…」
「シャツは、どうされますか?」
「その、水色のストライプのやつにしよう。ネクタイはそれ。ああ、靴もだな。志摩、靴のサイズはなんだ?」
「あ、え、と…に、24.5、です…」
「…背が低いと、足も小さいんだな。じゃあ、靴はその茶色のを。サイズはあるか?」
「はい、ございます」
淡々と進められる会話を聞きながら、まるで着せ替え人形みたいにスーツを着せられて。
なにがなんだかわからないまま、ズボン丈や肩幅、袖丈の調整をされる。
「あ、あの…ディナー、って…?」
ようやく少し混乱が落ち着いてきた頭で、そう訊ねると。
「…あ。もしかして、門限とかあるのか?遅くなったら、オーナーに怒られるのか?」
初めて気付いたとばかりに、首を傾げられた。
「いえ…大丈夫、ですけど…」
「そうか。ならいいだろ」
僕が首を横に振ると、ひとりで納得したように頷いて。
また、ソファに腰を下ろすと、鞄の中からノートパソコンを取り出して、カタカタとなにかを打ち込み始めた。
結局、僕は質問の答えはもらえなくて。
これって…
デート…なの…?
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