271 / 566

大瑠璃(おおるり)10 side志摩

コインパーキングに車を止め。 龍さんが最初に連れてきてくれたのは、紳士服の高級ブランドのお店だった。 「九条様。お待ちしておりました」 僕たちが店に入ると、奥の方から店長っぽい人が小走りで近付いてくる。 「ああ。この子だ。頼む」 「畏まりました。どうぞこちらへ」 短いやり取りのあと、僕は店の奥にある個室へと連れていかれた。 そこには何着かのスーツが、ハンガーにかかった状態でディスプレイされていた。 どれもこれも、明らかにすごーく高そうなスーツ。 「お客様のお好みはございますか?お色とか、柄とか」 龍さんが着たらカッコいいだろうなぁ、なんてぼんやりとそれを眺めていたら、店長さんにそう聞かれて。 「え!?ぼ、僕ですか!?」 思わず飛び上がっちゃった。 「ええ。お客様でございますよ?」 「え、いや、ぼ、僕は、そのっ…」 予想もしてなかった事態に、助けを求めるために龍さんへ視線を向けると。 いつの間にか応接セットに座った龍さんは、優雅にコーヒーを飲みながら、肩を竦める。 「おまえのスーツだ。自分の好きなものにするといい」 「え!?いや、でも…僕、スーツなんて着たことないので…」 つい、語尾が小さくなってしまうと、龍さんは大きな溜め息を吐いて立ち上がり。 飾られてるスーツを一通り眺めたあと、迷うことなくグレーのスーツと、紺色のスーツを手にとって、僕のもとへやってきた。 「うーん…こっちだな」 そうして、それを交互に僕に当てて。 紺色のスーツの方で、大きく頷く。 「これを、今日のディナーまでにこの子に合うように仕立て直してくれ」 「はい、畏まりました。では、失礼いたします」 店長さんはそのスーツを受け取って、おもむろに僕の服を脱がせ始めた。 「え、ちょ、ちょっと…」 「シャツは、どうされますか?」 「その、水色のストライプのやつにしよう。ネクタイはそれ。ああ、靴もだな。志摩、靴のサイズはなんだ?」 「あ、え、と…に、24.5、です…」 「…背が低いと、足も小さいんだな。じゃあ、靴はその茶色のを。サイズはあるか?」 「はい、ございます」 淡々と進められる会話を聞きながら、まるで着せ替え人形みたいにスーツを着せられて。 なにがなんだかわからないまま、ズボン丈や肩幅、袖丈の調整をされる。 「あ、あの…ディナー、って…?」 ようやく少し混乱が落ち着いてきた頭で、そう訊ねると。 「…あ。もしかして、門限とかあるのか?遅くなったら、オーナーに怒られるのか?」 初めて気付いたとばかりに、首を傾げられた。 「いえ…大丈夫、ですけど…」 「そうか。ならいいだろ」 僕が首を横に振ると、ひとりで納得したように頷いて。 また、ソファに腰を下ろすと、鞄の中からノートパソコンを取り出して、カタカタとなにかを打ち込み始めた。 結局、僕は質問の答えはもらえなくて。 これって… デート…なの…?

ともだちにシェアしよう!