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大瑠璃(おおるり)12 side志摩
宝石店を出たら、今度はすっごく高そうなホテルの一室に連れていかれ。
そこで、すっごく豪華なアフタヌーンティーを食べさせてもらった。
「今度はごちゃごちゃ言わないから。好きなように食べろ」
優しい声でそう言われて。
僕はとっても美味しいアフタヌーンティーを思う存分堪能した。
「…旨そうに食べるな」
勢いよくスコーンを頬張る僕を見て、龍さんがほんの少しだけ笑顔を見せてくれたのが、あのお店で龍さんと一緒に穏やかな時間を過ごしていた頃の幸せな気持ちを思い出させてくれた。
お腹いっぱいになって、そこにあったふかふかのベッドで少しだけお昼寝させてもらって。
日が傾いた頃、出来上がったスーツを取りに行って。
それに着替えた僕は、また車へと乗せられた。
車は都心を少し離れ、豪邸が建ち並ぶ閑静な住宅地を進んでいく。
「…そんなに気に入ったか?」
どこへ向かってるんだろうと、窓の外を見ながら。
無意識に首に巻かれたチョーカーを指先で弄ってると。
信号待ちの間に僕を見つめた龍さんが、呆れたように言った。
「はい、とっても。だって…龍さんが僕のために選んでくれたものだから…」
僕の誕生日が6月だって覚えててくれて
誕生石である真珠をわざわざ付けてくれた
僕のために
「…おまえは安上がりだな。高価なダイヤの指輪より、そんな首輪がいいんだから」
素っ気なくそう言ったと同時に信号が青に変わり、龍さんはまた前を向いて車を走らせる。
だけど、今まで冷たく、温度なんて感じられないように聞こえていた声が、どこか龍さんの温かい体温を乗せたもののように聞こえて。
「はいっ!」
僕は本当に久しぶりに、龍さんが好きだと言ってくれた元気な僕で、返事をした。
車は、豪邸だらけの住宅街でも、一際大きくて立派な洋館のようなお家の前で止まった。
鉄格子みたいなゴツい門が静かに開いて。
その中に、車は滑り込むように入っていく。
「あの…ここ、は…?」
「俺の実家。九条家の本宅だ」
「ええっ!?」
スーツを着せられたから、また高級レストランにでも連れていかれるんだろうと思ってたのに…
いきなり、実家!?
「父が、おまえに会わせろと五月蝿 くてな。だけど、仕事で殆ど家にはいないから…だから、そのうちにと思ってたら、いきなり今日を指定されて…って、志摩?大丈夫か?」
いきなりお義父さんにご挨拶なんて、心の準備もなにも出来なくて。
突然高まった緊張に、だらだらと冷や汗が流れる。
「あ、あのっ…僕、そのっ…」
「あぁ。緊張しなくてもいい」
龍さんは困ったように苦笑いして。
車を止めると、ポケットから取り出したハンカチで僕の顔をゴシゴシと乱暴に拭った。
「うちは、母はとうに亡くなってるし…二人いた兄も、ずいぶん昔に家を出てしまった。だから、ここにいるのは父だけだ。父は仕事には厳しい人だが、Ωの…特に男性には優しいんだ。だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だから」
そうして、優しげに目を細めると。
おでこにそっと、触れるだけのキスをくれた。
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