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大瑠璃(おおるり)15 side蓮
「どうぞ」
診察室のドアを開くと、見る人全てを安心させるような微笑みを湛えた誉先生に、椅子に座るように指示された。
「しゅ…楓は?」
「疲れたようで、眠ってます」
「そっか。検査は全て終わったから、楓が目が覚めたら退院していいよ。結果は、今君に話していいかな?」
「はい。お願いします」
頷くと、誉先生はマウスを不慣れな手付きでクリックする。
「いや、申し訳ない。こういう、最先端の機械には慣れてなくてね…えっと…これはどうやって見るのかな…?」
今時、パソコンなんて最先端でもなんでもないが、少しオロオロしながら慎重な手付きでカルテを表示させる誉先生に、思わず笑みが零れた。
楓がαらしくないって言ってたのがわかる気がする
だから、どんなΩも安心して誉先生に見てもらえるんだと
こんなαもいるんだな……
この人や那智さんが楓を助けてくれたこと
どれだけ感謝してもしきれない
もし楓がこの人たちに出会わなければ
きっと俺も楓に再び会うことは叶わなかっただろうから
「あっ、これだっ!」
ようやく見つけたようで、嬉しそうな声を出した先生に、堪えていた笑いが漏れてしまう。
「…笑ったな?」
「すみません」
素直に謝ると、先生も照れたように笑った。
「詳しい結果はまた後日になるけど、呼吸器系は問題なく回復してる。今回のはそっちの発作ではなく、心理的な問題だろうね」
「…はい。あの…楓はもう子どもが産めないって、本当なんでしょうか?」
「うーん…」
俺の質問に、先生は難しい顔で腕を組む。
「…可能性は、ゼロではない、と思う」
「それは…出来る、かもしれない、と?」
「当然、健康な人と比べると、着床率は格段に低いけどね」
その言葉に、一瞬ほっと緩みかけた心が、また突き落とされたような感覚になった。
「子宮がないわけじゃないから、可能性は残っているよ。しかも、君たちは運命の番だ。そのメカニズムはまだ未知の部分が多くてね。通常の番以上にその絆は強い、という以外、わからないことが多いんだ。でも、普段では起こり得ないような奇跡的なことも、起こせるとも言われている。だから…子どものことだって、相手が君なら大丈夫かもしれない」
だけど、続いた言葉にまたふわりと心を救い上げられる。
「子どものこともそうだけど、楓はすべての物事において、期待してそれが裏切られることを恐れていて、期待や希望を敢えて持たないようにしているところがある。今までずっと、そういう人生だったからね。それは仕方のないことだ。だから蓮くん、君は希望を捨てないで欲しいんだ。強く願わないと、奇跡は起こせないからね。…なんて、こんな非科学的な話、医者がしちゃいけないよなぁ」
最後はおどけたように肩を竦めてみせた先生に。
「いえ…ありがとうございます。先生にそう言っていただいて、俺たちも希望を捨てずに前を向いて進んでいけます。楓が先生のような素晴らしいお医者様に救ってもらったこと、本当に感謝してるんです」
包み隠さずに、今の本心を口にすると。
「いやぁ…君のように上位のαに褒められると、蕁麻疹出ちゃうよ」
またおどけたように、頭を搔いた。
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