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大瑠璃(おおるり)23 side楓

目蓋の裏に、白い光を感じて。 誘われるように目蓋を開くと、カーテンの開け放たれた窓から、燦々と太陽の光が降り注いでいた。 ベッドに横になったまま、ぼんやりとその光を浴びながら、昨日までの熱が嘘みたいに収まっているのを感じる。 ヒート、終わったんだ…… そう理解した瞬間、断片的ながらも蓮くんの熱っぽく俺を見下ろす瞳や甘い息遣いを思い出して。 ほわんと、胸があったかくなった。 俺… ちゃんとヒートを過ごせたんだ… ちゃんと蓮くんに抱かれてるって感じながら ヒートを乗り越えられたんだ… そう、ちゃんと頭で理解すると、喜びが次々に沸き上がってくる。 蓮くんの顔が早く見たくて、ベッドから起き上がると。 ツキン、と首の後ろに軽い痛みが走った。 「え…?」 思わず首に手を当てると、そこには包帯が巻かれていて。 「……あ!」 唐突に、思い出した。 蓮くんの番になった あの瞬間を 全身を雷に打たれたような衝撃が走って 身体の細胞の一個一個までが 一瞬で全て別のものに変わってしまったようなあの感覚 俺の全てが 本当に蓮くんだけのものになった あの瞬間 俺の中 溢れんばかりの幸せで満たされて くすんでいた世界が 一瞬で色鮮やかな世界に変わった瞬間 きっと あの瞬間の幸せな気持ちは 生涯忘れることはないだろう 胸いっぱいに広がる幸せを噛み締めながら、もう一度包帯の上からその痕を指先でなぞった時。 ガチャリと音を立て、寝室のドアが開いた。 「楓っ…!?大丈夫かっ!?」 現れた蓮くんは、なぜか焦った表情で駆け寄ってくる。 「え?」 「首、痛いのか!?」 なんでそんな顔?と首を傾げたら、俺が包帯の上に当てたままの手に、自分の手をそっと添えた。 「ごめんっ…俺、なんか加減出来なくてっ…強く噛みすぎちゃって、血がなかなか止まんなくてっ…でも、楓がもっともっとって離してくんないからさ!手当て、遅れちゃって…」 「ちょっ…ええっ!?」 途中ぶっ込まれた、自分の恥ずかしすぎる痴態に、思わず大声を上げちゃったら。 「ああっ!ごめんっ!俺、勝手に噛んで…嫌だったか!?」 なにを勘違いしたのか、蓮くんは更に焦りだしちゃって。 「ごめんっ!誉先生にも、ちゃんと二人で話し合えって言われてたのにっ…楓があんまり可愛いから、どうしても噛みたくて我慢できなくなっちゃって…」 「…蓮くん、ストップ」 焦ってる蓮くんなんて天然記念物並みに珍しいから、もっと見ていたい気もしたけれど。 俺は空いてる方の手を忙しなく動く唇に当てて、その先の言葉を止める。 「嫌なわけ、ないじゃん。ずっとずっと、俺の一番の夢は、蓮くんの番になること、だったんだよ?」 そんなのもう 夢見ることすらしちゃいけないって とっくに諦めてたはずだった でも本当は諦めることなんて出来てなかった だって今 こんなに幸せなんだもん 「楓…」 「でも…もし、どうするって聞かれてたら、無理って答えてたかもしれない。そうしたら、蓮くんきっと俺の気持ちを優先して、我慢しちゃったでしょ?だから…噛んでくれて、ありがと」 こんな俺を あなたの番にしてくれてありがとう 「…こんな俺、なんて言うな。俺の番は、楓ただ一人なんだ。楓は、俺にとって自分の命よりも大切な、世界でたった一人の人なんだから」 「…蓮くん…」 その言葉が、今までもらったどんな言葉よりも震えるほど嬉しくて。 「だから、これからはもっと自分を大切にしてくれ。これからずっと、二人で生きていくんだから」 「…うん…うん、蓮くん…」 零れた涙を、蓮くんのあったかい唇が吸い取ってくれた。

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