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鶺鴒(セキレイ)6 side蓮

むーっと頬をリスみたいに膨らませた姿が可愛くて、思わず微笑んでしまいそうになり。 俺は慌てて、顔を引き締めた。 「歩いてすぐって言ったって、なにがあるかわかんないだろ」 「なんにもないよ。だって、もうフェロモン出ないもん。こーんなにくっきりした噛み痕だってあるし」 だけど、俺よりさらにムッとした顔でうなじの噛み痕を見せられて。 ぐっと言葉に詰まる。 「…わかった。百歩譲って、コンビニは良いとしよう。でも、バイトはダメだ」 「なんでさ」 「なんでって、それこそなにがあるかわかんないだろ」 「だから、なんにもないって言ってんじゃん。聞いてた?俺の話」 「聞いてる。って言うかおまえ、全然自分のことわかってない。外を歩いてるとき、みんなおまえを見て振り返ってんの、知らないだろ。それくらい、自分が目立つ存在なんだってもうちょっと自覚しろ」 「は?それ、この噛み痕がスゴいからでしょ」 「ち、がう!」 「それに、みんな振り向いて見てるのって、俺じゃないし。蓮くんだし」 「は?」 「そっちこそ、どんなに自分が目立つ存在か、もうちょっと自覚したら?」 同じ言葉を、嫌みったらしく言い返されて。 イラッとした。 全然、わかってない!!! フェロモンなんか出てなくったって、自分がどんなに他人を惹き付ける存在なのか!!! 街ですれ違うαはみんな、おまえに視線を奪われてるし! ヒメチャンネルだって、早くおまえのピアノを聞きたいってコメントとおまえ自身に会いたいってコメントが半々なんだぞ!!! そう言い返したいのを、飲み込んだ。 目を細めて俺を見上げた楓の眼差しが、氷点下の冷たさだったから。 「…昔っから、そうだよね」 「は?」 「俺があれやりたい、こうしたいって言っても、ダメだの一点張りで…。蓮くんは俺が好きだっていうけどさ。それ、ホント?ただ単に、自分の欲望を満たしてくれて、自分の思いどおりに動くΩが欲しいだけなんじゃない?」 「っ…ざけんなっ!」 だけど。 さすがに、その言葉は許せなかった。 「俺がっ…どんな思いで小さい頃からずっとおまえを守ろうとしてきたのか、わかってんのかよっ!」 肩を力の限り強く掴み、血を吐く思いで叫ぶと。 楓は動揺したように瞳を大きく揺らして。 そのままふいっと顔を背けた。 「…ごめん。今のは言い過ぎた」 そうして、小さな声で謝ると。 背けた顔を、床へと向ける。 「わかったよ…もう、わがまま言わない。全部、蓮くんの言う通りにするから」 だけど、いじけたみたいにそんなこと言い出して。 「っ…だからっ!そういうこと、言ってんじゃねぇだろっ!」 「ごめん。俺、もう寝る。ごはん、自分で温めて食べて」 俺の言うことなんて、聞く耳すら持たないで。 楓は俺の腕をするりと抜け出すと、ベッドルームへと駆け込んでしまった。

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