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鶺鴒(セキレイ)20 side蓮
「じゃあ…新しい仕事が決まったことに、乾杯」
俺の仕事が終わるまで控え室となる部屋で楓を待たせ、一緒にマンションへ帰ってきて。
途中で買い込んだワインとおつまみで、乾杯した。
「ん…おいし」
まだ一口しか飲んでないのに、ほんのり赤く色付いた頬に笑みを乗せ、楓が少し潤んだ瞳で俺を見つめる。
「良かったな。無事、決まって」
「うん…ありがと。ねぇ…この仕事、本当は蓮くんが手を回してくれたんでしょ?」
「いや、今回は本当に和哉が提案してくれたんだ。それと、たぶん春海も」
「え?春くんも?」
じゃなきゃ、あんな絶妙なタイミングで和哉がこの話を持ってくるはずないし…
「そっか…俺って、相変わらずみんなに助けてもらってるんだなぁ…なんか、高校のときから進歩してないのかも」
そう言って、ちょっと落ち込んだように肩を下げるから。
「そんなことないよ。そもそも、楓がヒメとして有名じゃなかったら、この話自体、持ち上がってないし。だからこれは、楓自身の力でもぎ取った仕事なんだよ」
俺は下がった肩を左手で抱き寄せて、ほんのり熱い頬にキスをした。
「そう、なのかな…?」
「それに、助けてもらったのは楓じゃなくて、俺だろ。あいつらがこの話を持ってこなきゃ、楓が仕事すること自体、俺まだ許せなかっただろうし…。なんか、今回のことであいつらにとんでもない借りが出来た気がする…」
オーバーにがっくりと項垂れてみせると、今度は楓の方から頬にキスをくれる。
瞬間、ほんのりと甘い香りが鼻腔を擽った。
「じゃあ、春くんと和哉になんかお礼しなきゃね。とりあえずご飯誘ってみようか。あ、今電話してみる?」
楽しそうに微笑みながら、立ち上がろうとしたその腕を、掴んで引き留める。
「蓮くん?」
「それは、また今度な」
「え?でも…」
「おまえ、すげーいい匂いしてる」
強く引き寄せ、うなじに唇を這わすと。
楓の身体はびくんっと跳ねて。
ぶわっと噎せ返るようなフェロモンが、一気に溢れ出た。
「あっ…俺っ…」
「そろそろ、ヒートだろ?忘れてたみたいだけど」
噛み痕をねっとりと舐めると、またびくびくっと震え。
「あ、ぁんっ…」
軽く歯を立てると、また濃厚なフェロモンが溢れる。
本当は
契約が決まったら、雰囲気のいいレストランでお祝いでも…
なんて思ってたんだけど
契約が済んだ頃から
ほんのりフェロモン溢れてんだよな
おまえは新しい未来に夢中で
自分じゃ気付いてないみたいだったけど
「仕事の話は、もう終わり。今は、他のことなんて考えてないで、俺のことだけ感じろよ」
手に持っていたワイングラスを取り上げ、そのままソファに押し倒した。
「うん」
熱い腕が、伸びてくる。
「蓮くんだけ、感じる。俺のなか、蓮くんでいっぱいにして?」
甘い吐息を吐く、幸せそうな笑みを象った唇に。
俺は噛みつくようにキスをした。
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