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鶺鴒(セキレイ)27 side楓
泣き止まなきゃって、わかってるのに。
涙はなかなか止まってくれなくて。
「ごめん…ごめんな…俺が悪かった…」
蓮くんは何度も謝りながら、涙が止まるまで俺の背中を擦ってくれた。
「ごめん…」
ようやく涙が止まって。
鼻を啜りながら謝ると、蓮くんは申し訳なさそうに眉を下げながら、何度も濡れた頬にキスをくれる。
「違う。楓が謝る必要なんてない。全部、俺が悪い。だからもう、謝らないでくれ」
「でも…」
「俺、嫉妬したんだ。伊織と話してる時の楓は、俺といる時とは全然違ってて…俺の知らない楓を伊織が知ってることがなんか悔しくて、子どもみたいに嫉妬した」
「蓮くん…」
「そりゃあさ、その…伊織と過去にどういう関係だったかって考えたら、まだモヤモヤするけど…でも、今はそうじゃないってわかってるし、これからもそんなことにはならないってわかってるし。楓が苦しみながらも生きていてくれたから、今こうやっておまえの傍にいられる…そのことには、本当に感謝しかない。生きていてくれて、ありがとう」
そう言って優しく微笑んだ蓮くんの強さに、また涙が溢れた。
「もう…泣くなってば」
蓮くんは、その長い指で俺の涙をまた掬って。
「あのさ、楓…こんな情けないこと言っといて、説得力ないけどさ…もう、謝るのやめよう?どうやったって、過去は変えられない。でも、そのことを楓が重荷に感じなくてもいいんだ。その過去の上にある今の楓を、俺は愛してるんだから」
「でもっ…」
「俺ももう、ごめんって言うの、なるべく我慢する。俺がそう言う度、楓も過去のことを思い出しちゃうだろうし…これからはさ、二人で未来だけ見て、歩いていこう」
大きな腕で、俺を包み込んでくれる。
自分の気持ち、いっぱいいっぱい我慢して。
俺のことだけを思って、そんな優しいことを言ってくれる。
だったら
俺もちゃんと前を向かなきゃいけない
「…うん…わかった…けど」
「けど?」
「俺は『止める』のに、蓮くんは『我慢する』なの?」
今はまだ
その大きな背中を必死に追いかけることしかできないけど
いつか必ず
横に並んで一緒に歩けるように
「あー…うん、わかった。俺も、ごめんは止める」
少し困ったような微笑みに変わった唇に、キスをして。
俺はぎゅっと蓮くんを抱き締め返した。
「…ありがと。俺…蓮くんの番になれて、本当に幸せだよ…愛してる、蓮くん…」
心からの言葉を唇に乗せると、蓮くんも本当に嬉しそうに笑って。
「俺も…本当に幸せだ。ありがとう、生きててくれて…俺の番になってくれて、ありがとう。俺も、誰よりも楓だけを愛しているよ」
潤んだ瞳から、宝石のような涙が一粒、溢れ落ちた。
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