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白鷺(しらさぎ)6 side楓

小一時間ほどして、和哉が蓮くんと一緒に戻ってきて。 4人でまた一時間ほど談笑した後、俺たちは和哉と春くんに見送られてマンションに戻った。 「楽しかったか?」 ソファにぼすんと身体を投げ出した俺の隣に、蓮くんが缶ビールを二本持って座る。 「うん。…ねぇ、春くんと和哉って付き合ってんの?」 その一本を受け取りながら訊ねると、蓮くんは持ってたビールを一口飲んで、首を捻った。 「どうなんだろうな?和哉に聞いても、それは違うって言い張るけど」 「でも、洗面台に歯ブラシ二本並んでたよ?」 「頻繁にお互いの家を往き来してるのは、確かみたいだけどな…まぁまだ、友だち以上恋人未満、ってやつなんじゃないか?」 「そっか」 昔から仲良しだったけど 二人すごくいい雰囲気だったし 春くんには本当に幸せになって欲しいから 俺が関わった人にはみんな 幸せになって欲しいから…… 「…これは、俺のエゴだけどさ…二人が上手くいくといいな、なんて思っちゃった」 俺の呟きに、蓮くんは優しく微笑んで。 なにも言わず、頭を撫でてくれる。 俺はその大きな手をそっと捕まえて、自分の身体に巻き付けるようにして、蓮くんの胸に身体を預けた。 「楓?どうした?」 「…龍…元気かな…?」 声は、少し掠れてしまった。 「…楓」 「なんか…4人でいると、懐かしくて…でも、なんか違和感あって…なんでだろうって考えて…龍がいないから、なのかもって…」 少しの息苦しさを感じたけれど。 言葉を止めることはしなかった。 今までずっと考えることを避けてきた 龍のこと思い出す度 苦しさに息が出来なくなって でも 前を向くって決めたんだ 蓮くんと一緒に歩いていくって だったら ちゃんと向き合わなきゃいけない 「そんなこと、しなくていい。わざわざ思い出したくもないことを、思い出す必要なんてないんだよ。そんなことしなくったって、楓はちゃんと前に進めてる」 蓮くんの腕が、宥めるように背中を擦るけど。 俺は首を横に振った。 「無理だよ。どんなに憎もうと思っても…俺の中で、龍の存在を消そうと思っても…どうしても、無理なんだ。だって…あいつは俺の、弟、なんだから…」 「…楓…」 蓮くんの声にも、苦しさが混じる。 「それに…あの事をなかったことにしちゃったら…あのこも、いなかったことになる…あのこの命を…あのこがちゃんとこの世に生を受けたことを、知ってるのは俺だけなんだ。その俺が、あの事を忘れてしまったら…あのこのことも、忘れてしまったことになる。それだけは、絶対にしたくない…」 俺の言葉に、蓮くんは瞳に涙を滲ませて。 ただ黙って、俺を強く抱き締めた。

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