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白鷺(しらさぎ)15 side楓

『大浦天主堂ってところに連れていってもらった。すごく厳かで綺麗だったよ。楓と結婚式あげる時には、こういうところがいいな』 『卓袱(しっぽく)料理、激うま!東京でも食べられるところがあるって。今度二人で食べにいこうな』 『夜景、めっちゃ綺麗だ。これで横に楓がいれば、最高なのに』 仕事を終え、マンションに帰ってきて。 わざと置いていったスマホを開くと、蓮くんからのメッセージと写真が送られてきてた。 白い教会をバックに微笑む、蓮くん。 たくさんの料理が並んでるなか、お肉を大きな口を開けて食べようとしてる、蓮くん。 まるで夜空の星屑をちりばめたような美しい夜景を見ている、蓮くん。 どの写真にも、蓮くんの姿が収められていて。 画面に映る蓮くんを、そっと指でなぞれば。 今まで感じない振りをしていた寂しさが、ぶわっと溢れてきた。 「蓮くん…寂しいよ…」 今朝、別れたばかりなのに。 蓮くんが仕事の時間はいつも一人で過ごしているはずの部屋が、いつもと違ってとても広く、肌寒く感じる。 俺の知らない場所に蓮くんが写ってるこの写真に、余計に蓮くんとの距離を感じさせられてる気がして。 蓮くんに会いたい。 今すぐに、抱き締めて欲しい。 「うーっ…」 返信しなきゃって思うのに、何を書いても蓮くんを困らせることしか出てこない気がして。 俺はスマホを持ったまま、その場に踞った。 蓮くんはいつでもいいから、我慢しないで連絡してって言ったけど。 今、蓮くんの声を聞いたら、寂しさがより一層募りそうな気がして。 電話をすることも出来ない。 蓮くんに再会するまでは、ひとりでいるのなんてなんともなかったのに。 むしろ、ひとりでいる方が楽だったのに。 なんで俺、こんなに弱くなっちゃったの…? 「蓮くん…会いたいよぉ…」 我慢できなくて、言葉にすると。 やっぱりもっと寂しさが溢れてきてしまって。 慌ててスマホをソファの隙間に突っ込んで、少し気分を変えるためにシャワーでも浴びようと立ち上がった瞬間。 その違和感に気づいた。 「あ…」 身体の芯が 熱が出たみたいに火照ってる 「え…うそ…」 ヒートまでは、あと一週間はあるはずなのに…! 「や、やだっ…」 どうしようっ… 蓮くん、明後日の夜まで帰ってこないのにっ… 過去の、断片的なヒートの記憶が一気に甦ってきて。 身体が、震えた。 「蓮くん、蓮くんっ…」 呼んでもいるはずのない名前を呼びながら、部屋中をうろうろ歩き回る。 その間にも、どんどん身体は火照ってきて。 頭に靄がかかったみたいにぼんやりしてきた。 「…っ…はっ…蓮、くんっ…たすけてっ…」 少しでもいいから、蓮くんを感じたくて。 ベッドルームに駆け込むと、蓮くんの枕をぎゅうっと抱き締める。 そこに残る蓮くんの匂いが鼻から身体に染み渡ると、もう暴走し始めてた熱が、ほんの少し落ち着いた。 でも。 「…たりない…」 もっと もっと蓮くんが欲しい… 俺はベッドを降りて、すぐ側のクローゼットを開けて。 蓮くんの匂いがするスーツを引っ張り出した。

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