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白鷺(しらさぎ)27 side蓮

「ごめんなさい…」 不安そうに成り行きを見守っていたお客様たちに謝罪し、心配かけたフロントスタッフを労って。 支配人室へ戻ってくると、楓はしゅんとして頭を下げた。 「どうして謝るの」 「だって…あの人、大切な取り引き先の人なんでしょ?なのに俺、ついカッとなってあんなこと…」 「そんなこと、かえ…ヒメが気にすることない」 「でもっ…俺のせいで、蓮くんやみんなに迷惑をっ…」 「心配しなくても、大丈夫だ。君は、迷惑なんてかけてない。むしろ、私はスカッと爽快な気分にさせてもらったよ」 俺たちの会話に、菊池社長が突然割って入ってきて。 楓は、びくっと小さく震えると、助けを求めるように俺を見る。 「この人は、社長の菊池さんだよ。菊池ホテルチェーンの社長、菊池保孝さん」 「えっ!?社長さん!?」 「はじめまして、お姫様。お会いできて嬉しいよ」 社長が笑顔で、手を差し出して。 楓はその手を取ろうと、自分の手を伸ばしたけど。 触れる寸前で、またびくっと震えて、手を引っ込めた。 そうして、また不安げに俺を見つめる。 きっと さっきあの女に触られた瞬間を思い出したんだろう 俺以外のαへの拒絶反応がどんなものか 俺にはわからないけど たぶん相当な苦痛を伴うものに違いない あの女に触られる前に、楓を助けられなかった自分自身に怒りを感じながら。 俺はそっと楓の肩を抱いて、握手を促そうとすると。 「大丈夫。私は、βだから」 社長の方が一瞬早くそう言って、微笑んだ。 「え!?あっ…すみませんっ…」 「いや、気にしないで。握手、してくれるかな?」 差し出されたままの手を、楓は両手で包み込むように重ねて。 「大変失礼しました。初めまして、ヒメです。よろしくお願いします」 ふんわりと、柔らかく微笑む。 握手を交わした手を離すと、社長はほうっと感嘆の息を吐いた。 「しかし、噂には聞いていたけど、本当に美しい人だな。こんなに美しい人が運命の番なんて、九条くんが羨ましいよ。運命の番なんて一生で出会う確率は数パーセントって話だけど、よくもまあ巡りあったものだ。いったいどこで出会ったんだ?」 社長の何気無い質問に、楓がチラッと不安気な視線を寄越す。 俺は、大丈夫だよと伝えるために、そっと柔らかい髪を撫でた。 「それは、秘密です」 「社長の私にも、か?」 「Ωが生きていくにはまだまだ厳しい世の中だから、うちのホテルで働くΩには、これまでの経歴は問わない。そうおっしゃられたのは社長ですよ?だから、俺の番がどこでなにをしていたのかも、問う必要はありませんよね?」 「…これは、一本取られたな。やっぱり、君には敵わないなぁ」 そう言って、社長はあっさりと引き下がる。 「…蓮くん…」 それでもまだ不安げに揺れる眼差しを、目蓋にキスを落とすことで閉じ込めた。 「…成松くん。九条くんはいつも、番のお姫様の前ではこんな感じなのか?」 「ええ。ヒメの前では、これがマストです」 「…面白い。動画撮って、今度酒のツマミにでもするか」 「胸焼けしますよ?」 「…やめてください、社長…」

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