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白鷺(しらさぎ)29 side志摩

「はぁ……」 机の引き出しの奥にしまった、あのピアノの部屋で見つけた写真を取り出して。 「柊さん…なんだよね…?」 真ん中に映るその人に、もう数えきれないほど呟いた言葉を、また問いかけた。 他人の空似なんじゃないかって、何度もそう思おうとした。 僕の知っている柊さんは、笑っててもどこか儚げで。 こんなに屈託ない笑顔をみせることはなかったから。 でも、柊さんが最後に話してくれたこと。 柊さんの運命は血の繋がったお兄さんで、番になることを許されずに引き離されたこと。 そうして、柊さんが時々空を見上げながら小さな声で呼んでいた『れんくん』という名前。 こんな偶然、あるだろうか? そう考えれば、もうこの写真の真ん中に写っている楓さんは柊さんで、この横にいる男の人が柊さんの運命の『れんくん』だとしか思えなかった。 でも、どうやって確かめたらいい? 他の写真を探そうとしたけど、アルバムなんてこの家にはどこにもなくて。 小夜さんが昔は確かにあったと言ってたから、お義父さんか龍さんが故意に処分したのかもしれない。 思い出のアルバムを捨てちゃうほどのなにかが、蓮さんと楓さんにあったってこと、だよね…… それは、二人が義理とはいえ兄弟なのに運命の番だったから…? でも、それだけのことで、アルバムまで捨てちゃうだろうか…? まるで二人は最初からいなかったみたいに…… その時、階段を上がってくる足音が聞こえてきて。 僕は慌てて写真をまた引き出しの奥に戻した。 引き出しを閉めたのと同時に、ドアが開く。 現れた龍さんの、お風呂上がりの洗い晒しの黒髪と、上気してほんのり赤く染まった頬の色っぽさに、ドキッと心臓が高鳴った。 「あ…お水、飲みますか?」 「ああ、ありがとう」 毎日見てるのに全然慣れることのない無防備な姿にドキドキしながら、部屋の隅にある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップに注いで龍さんの元へ戻る。 「はい、どうぞ」 そう言って差し出したコップを、じっと見つめ。 コップを掴んだ僕の手首を掴んで座らせると。 「飲ませて?志摩」 ニヤリと笑って、そう言った。 「ええっ!?」 「嫌か?」 「い、嫌じゃない、けど…ぬるくなっちゃいますよ?」 「かまわない」 そう言って、まるでワクワクしてるみたいな期待に満ちた表情で僕を見る。 最近 本当に最近のことなんだけど 龍さんは時々こうやって僕に甘えるような言動をする そういうの なんかすごく擽ったくてむず痒いけど なんかすごく嬉しい 「じゃ、じゃあ…」 僕がお水を口に含むと、龍さんは微笑んで、軽く唇を開いた。 ドキドキとうるさい自分の心臓の音を聴きながら、唇を寄せると、ふわっと龍さんのフェロモンが溢れる。 ゆっくりと降りていく長い睫に縁取られた目蓋を見つめながら、唇を重ね。 含んだ水を、落とすと。 龍さんの喉がコクンと小さな音を立てて。 また溢れたフェロモンが、僕を包み込んだ。 「…志摩、もっと」 「はい…」 何度かそれを繰り返すと、突然、龍さんの腕が僕を強く引き寄せて。 熱い舌が、僕のそれを激しく絡め取った。

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