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大水薙鳥(オオミズナギドリ)2 side蓮

「ねぇねぇ、あの列、なに?」 まずは伏見稲荷の本殿に参拝し。 楓がおみくじが引きたいと言うから、授与所へ向かうと。 その一角に出来ている行列に、興味を引かれたようだった。 「ああ。御朱印かな?」 「御朱印?なにそれ」 「簡単に言えば、参拝した印、みたいな感じ。もともとはお寺に写経を納めた証にもらうものだったみたいだけど。今は、お金を払えば誰でももらえるよ」 「ふーん…」 わかったのかわかってないのか、微妙な返事をして。 上目遣いに、俺を見る。 「…欲しいの?」 「ダメ?」 「いいよ、もちろん」 頷くと、ぱっと表情を明るくした。 やべ… 今の、めちゃめちゃ可愛い… 「御朱印帳も買わなきゃだな」 「そうなの?」 「うん。そこに、書いてもらう」 「へぇ…」 ワクワクしてますって書いてある横顔に、にやけそうになるのをなんとか我慢しつつ、列の最後に並び。 それぞれ一冊ずつ御朱印帳を買って、最初のページに御朱印をもらう。 俺はすぐにそれをバッグにしまったけど、楓はしばらくの間、ひどく興味深げに書かれた御朱印を眺めていた。 「なに、そんなに気に入ったの?」 「うん」 「だったら、他にもいくつか御朱印もらえるみたいだから、行ってみる?」 「え、そうなの?行きたい!」 「でも、ひとつは山の上みたいだよ?ここから歩いて40分くらいかかるって。大丈夫?」 地図を確認しながら訊ねると、楓は躊躇なく頷く。 「行く!」 「…わかった。でも、途中で歩けなくなっても、おんぶ出来ないぞ?」 「そんな子どもみたいなこと言わないもん」 そう言って、頬を膨らませて。 楓の方が、繋いだままの俺の手を引いた。 まいったな… 本当は伏見稲荷はサクッと終わらせて、次に行こうと思ってたんだけど… こっそりと溜め息を吐きながら、頭の中で今日のスケジュールを組み立て直そうとして。 でも、楽しそうに前だけを見て歩く楓の姿に、すぐにそれを放棄する。 まぁ、いいか 別に観光するのが目的なんじゃないし 楓が楽しそうにしているのが一番だし 今までずっと窮屈な場所でしか生きられなかった分 出来るだけ、好きなように自由にさせてやりたいから 「うわぁ…すごい鳥居の数だね。こういうの、壮観って言うんだねぇ」 初めて見る景色にキラキラと輝く瞳は、この世にひとつだけの美しい宝石のようで。 俺だけの美しい天使の姿を焼き付けようと、鞄から一眼レフを取り出した。 「…それ、どうしたの?」 「今日の為に、買ったんだ。せっかくの新婚旅行なんだから、綺麗な画像で残しておきたいと思って」 「新婚、旅行って…」 「え?違った?」 「…ううん、違わない」 俺の言葉に、楓は恥ずかしそうに頬を染めたけど。 「じゃあほら、そこに立って」 そう指示すると、素直に従って。 「笑って?楓」 構えたファインダーの向こう側で、俺の天使は透き通るような美しい微笑みを浮かべた。

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