354 / 566

大水薙鳥(オオミズナギドリ)5 side蓮

「ねぇ、お風呂入ってきてもいい?」 立ててもらった抹茶を味わいながら、歩き疲れた身体を休めていると。 さっきから、なんだかうずうずと落ち着かなかった楓が、訊ねてきた。 どうやら、庭の露天風呂が気になって仕方なかったらしい。 「そうだな。じゃあ、夕飯の前に入るか」 「えっ!?」 「えっ、てなんだよ」 「い、一緒に入るの?」 「…むしろ、なんで別々に入るんだ?」 「だ、だって…せっかくだから、ゆっくり浸かりたいもん」 「二人でゆっくり浸かればいいだろ」 「…そう、だけど…」 ぼそぼそと、そう言って。 楓は、ほんの少し唇を尖らせる。 一瞬、一緒に入るのが嫌なのかと思ったけど、頬がほんのり薄紅色に染まってるのを見ると、どうやらエッチなことを期待してるらしい。 だったら、期待には答えないとな。 「ほら、いくぞ」 無理やり手を引いて立ち上がらせ。 着ているセーターを脱がせる。 「うわっ、ちょっ…自分で脱げるからっ…」 「そう?」 あっさり手を離すと、恨めしそうに俺をチラリと見上げた。 なんだかモジモジして、なかなか脱ごうとしない楓を後目に、ぱっぱと服を脱いで真っ裸になると。 頬をさらに赤く染めて、俺から目を逸らす。 2日と空けないで肌を重ねて お互いの身体なんて自分じゃ見えないホクロの位置まで知り尽くしてるのに なにを今さら恥じらうことがあるんだか… まぁそんなところも めちゃくちゃ可愛いと思う俺も 相当イカれてるけど でも… このままじゃ俺だけ、風邪引くっつの…! 「…やっぱ、脱がせてやろうか?」 痺れを切らせて、もう一度手を伸ばすと。 「っ…自分で、できるもんっ」 突然、幼稚園児みたいなセリフで、慌てて服を脱ぎ捨てた。 「…っぷ」 「なに笑ってんの」 「いや、なんでも」 「子どもみたいだって思ったんでしょ!」 「ごめんごめん」 「やっぱりっ…!」 それこそ、子どもみたいに頬を膨らませた楓を、引き寄せて。 バランスを崩した隙に、膝裏に腕を差し込み、姫抱っこで抱えあげた。 「う、わぁっ…」 「暴れると、落ちるぞ」 咄嗟に首に回ってきた腕の強さに、思わず口元がにやける。 「もうっ…」 怒った表情を作ったけど、腕はもっと肌を密着させるように俺を引き寄せて。 素直じゃないその唇に、触れるだけのキスを落とした。 楓を抱いたまま庭へ出て、檜で作られた露天風呂に浸かる。 「…きもちい…」 お湯は少し熱めだったけど、身を切るような冷たい冬の外気の中で、すぐにちょうどいい温度に感じられて。 俺は、一瞬で冷えた楓の肩を引き寄せた。 街中の喧騒が嘘のような静寂の中。 耳に届くのは、風が木の葉を揺らす音と川のせせらぎだけ。 まるで、世界には俺たちだけが存在しているようで。 「…なんか…こうしてるだけで、すごく幸せ…」 俺が感じたことを、楓が静かに言葉にする。 「ああ…」 その、何よりも愛おしい存在を抱き締めて。 胸を満たす幸せに、酔いしれた。

ともだちにシェアしよう!