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大水薙鳥(オオミズナギドリ)17 side蓮
その後、八坂神社を参拝し、祇園の店で湯豆腐に舌鼓を打ち。
晴明神社に参拝して、金閣寺へと移動したところで、楓の足取りが重くなったのに気がついた。
「大丈夫か?疲れたか?」
大勢の観光客に揉みくちゃにされながら金閣寺を見て、御朱印をもらう列に並んだところで、そう声をかけると。
楓は少し青白い頬で、申し訳なさそうに俺を見つめる。
「ごめん…なんか、人酔いしたのかも…」
「謝ることない。これもらったら、少し休んで宿に戻ろう」
「でも…まだ、北野天満宮とか行きたかったのに…」
「明日もまだあるし。明日が無理なら、またいくらだって連れてきてやるし。これが最後じゃないんだから、今無理する必要ないから」
ごねる背中を宥めるように擦ると、なぜかハッとしたような表情を浮かべて。
「…そうだよね。うん、わかった」
素直に、頷いた。
その姿に、ほんの少しだけちくりと胸が痛む。
少しずつ少しずつ
心の傷は癒えてきている実感はある
この先も俺と一緒に生きていこうと心から思ってくれていることを疑ったりはしない
それでもまだ
遠い未来のことまで考えることは難しいのだということを
こんな些細な瞬間に感じさせられる
ずっとその日一日をなんとか生きることだけを考えて生きてきたんだ
それを急に変えるなんて無理な話だ
そう頭では理解しているのに
その心の傷の深さを
俺の犯した過ちの罪深さを
ふとした瞬間に突きつけられるようで…
「蓮くん?どうしたの?」
思考の海に沈みかけた俺を、楓の不安そうな声が引き戻した。
「いや、なんでもない。宿に戻ったら、どうやって楓を可愛がろうかって考えてた」
笑顔を作り、わざとふざけた台詞を口に乗せる。
楓に小さな不安も与えたくはないから。
「っ…はぁ!?なにそれっ…」
羞恥からか、怒りからか、楓の頬に少しだけ赤みが差して。
「蓮くんの変態っ!心配して、損した!」
ぷいっと顔を背けた姿に、心の中でそっと胸を撫で下ろした。
「心配してくれてたの?ありがと」
「してない!」
「あーなんか、俺も疲れちゃったな~」
「嘘ばっか!全然元気じゃん!」
軽口を叩きあってるうちに、順番が回ってきて。
丁寧に書いてもらった御朱印を受け取ると、それで少し機嫌が直ったらしく。
まじまじと御朱印帳を眺めた後、俺へと笑顔を向けてくれる。
「なんか、カッコいいね、この御朱印」
「そうだな。じゃあ、そこの店で抹茶アイスでも食べて、宿に戻ろうか」
「うん」
俺の提案に、頷いて。
差し出した腕に、するりと自分のそれを絡めた。
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