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大水薙鳥(オオミズナギドリ)27 side志摩

『やっと打ち合わせが終わった。疲れたよ。年寄りは文句ばっかり言うだけで、代替案を出してこないから…って、ごめん、愚痴は聞きたくないよな。早く帰って志摩の顔が見たいよ。おやすみ。いい夢を』 昨日、僕が寝た後に届いたメッセージをまた読み返して。 また、顔がにやけちゃう。 「全然…いつでも愚痴ってくれていいですよ」 打とうとして、でも龍さんは嫌かもしれないなと思い止まった言葉を、口に乗せる。 今まで僕の前で弱音なんて吐いたことなかったのに なんだか僕を信頼してくれてるみたいですごく嬉しいな 「僕も、龍さんに早く会いたいです…」 朝一で送った自分のメッセージを、声に出しながら指でなぞっていると。 不意にノックの音がした。 「はい」 「おくつろぎのところ、すみません、志摩さん」 ドアを開けると、小夜さんが立っていて。 「あの…私、うっかりお客様用のお茶を切らしてしまっていて、買い物に行ってきてもよろしいでしょうか?」 恐縮するように肩を小さくして、そう言う。 「え?あ、はい。もちろんです。どなたか、大事なお客様なんですか?」 「ええ。旦那様のお客様で、間もなくいらっしゃるご予定ですので、急いで行ってきますね」 「お義父さんの?でも、まだお義父さん、お戻りじゃないですよね?」 「本当はもう戻っていらっしゃる予定だったんですが、飛行機が遅れてるみたいで。そのこともお伝えしたんですが、だったらのんびりと待たせてもらうよと仰られて…」 「そうなんですか。わかりました、いらっしゃったら僕がおもてなししてますから、小夜さんは焦らずに行ってきてください。こう見えても僕、昔は接客のお仕事してたんで」 にっこりと営業用の笑顔を作ると、小夜さんもほんの少し笑顔になった。 「じゃあ、なるべく急いで戻りますので、よろしくお願いします」 「はい」 慌てて出ていったのを見送って、僕は大きなお腹を抱えて一階へと降りる。 「お茶は切らしてるけど、なにも出さないわけにはいかないよね…」 台所の棚を漁りながら、なんだか気持ちがふわふわしてることに気付いた。 そういえば僕 この家にきてから家族以外の人に会うの初めてかも お義父さんのお客様とはいえ、久し振りに外の人に触れることにちょっぴりの緊張と、ちょっぴりのワクワクを感じていると。 玄関のチャイムが、鳴った。 「あ、はーい!」 門のところに付いてるインターフォンじゃなくて、直接玄関を鳴らすってことは、よっぽどお義父さんが信頼してるお客様なんだなぁ、なんて考えつつ。 小走りで長い廊下を歩き、玄関のドアを開く。 「いらっしゃいませ。すみません、お待たせして。お義父さんはまだお戻りじゃ…」 微笑みを作って、ドアの外に立ってた人を見上げて。 思わず、息を飲んだ。 「やぁ、志摩くん。久し振りだね。元気そうでなによりだ」 「…伊織、せんせ…?」

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