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夜鷹(よたか)4 side蓮
京都旅行の間に溜まりに溜まった事務処理をようやく片付け、館内の見回りに行こうかと立ち上がった時。
デスクの上に置いてあったプライベートのスマホが震えた。
楓からかと、慌てて取り上げると、ディスプレイには『伊織』の文字。
いつも食事の誘いはメッセージなのに、通話なんて珍しいと、不思議に思いながら応答をタップする。
「はい」
『やぁ。忙しい時間にすまないね』
「いや…でも、電話なんて珍しいな。なにか急ぎの用でも?」
『うん…急ぎといえば、そうかな』
普段ではありえない歯切れの悪さに、ますます疑問符が頭のなかに飛び交った。
『…蓮。今日の夜は、空いてるかい?』
「え?あぁ…特に用事はないけど」
『だったら、ディナーでもどうかな?…二人だけで』
最後の言葉に、気持ちが少し身構える。
念押ししたってことは
楓は連れてくるなってことか
なにか、楓には聞かせられない話なのか…?
「…わかった」
『場所は、こちらで指定する。後で店の名前を送っておくから、仕事のきりのいい時間に来てくれ。僕はのんびり待ってるから』
一方的にそう言って、ぷつりと通話は切れた。
いつもとは違う、少し緊張感を纏ったような伊織の声音に、心がざわざわと波打つ。
それを、大きく深呼吸をして胸の奥に押し込み、楓の控え室へと向かいながら、和哉に連絡する。
「すまない。急な会食が入ったから、今晩楓を頼めるか?」
『…最近、俺をベビーシッターかなにかと勘違いしてませんか?』
「おい。楓は子どもじゃないぞ」
『子ども扱いしてるのは、蓮さんでしょ』
「そんなはずないだろ」
『…』
「なんだよ、その沈黙」
『…わかりました。まぁ、楓が来ると春が喜びますしね。なんだったら、一晩預かりますよ』
「…終わったら迎えに行く。それまで頼む」
電話の向こうで薄く笑う気配を感じながら、通話を終わらせ、ちょうど到着した楓の控え室のドアをノックする。
「楓?もう来てるか?」
「蓮くん?どうしたの?」
すぐにドアが開き、迎え入れてくれた楓の腰を抱いて、中へ入り、ベッドへ並んで腰掛けた。
「疲れてないか?今日は休んでも良かったのに」
昨日、京都から戻ってきたばかりで、疲労の色が残る頬をそっと撫でると、笑顔で首を横に振る。
「大丈夫。仕事休んで遊んできたのに、休めないでしょ。それより、なにかあったの?わざわざ仕事中に来るなんて」
「ああ、いや…今日の夜、仕事の会食が急に入ってさ。一緒に帰れないから、今日は和哉の家で待っててくれるか?」
向けられた無垢な眼差しに、咄嗟に嘘を吐いた。
「いいけど…子どもじゃないんだし、一人で帰れるけど?」
「ダメだ。危ないだろ」
「ちゃんとタクシーで家の前まで行くから大丈夫だって」
「ダメだ」
少し強く言うと、子どもみたいにぷぅっと頬を膨らませる。
「…わかった。…あ!そういえば、春くんが今度遊びにきたらゲームやろうって言ってたんだった。なんかね、この間買った格闘ゲームがすごく面白いんだって。蓮くん、ゆっくりしてきていいからね」
「…終わったら、すぐに迎えに行く」
「…」
楓は、なぜか小さく溜め息を吐いた。
「…なんだよ」
「なんでもない」
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