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夜鷹(よたか)5 side蓮

伊織が指定してきたのは、古く重厚な佇まいの、いかにもな懐石料理の店だった。 「やぁ。案外早かったな」 案内された一番奥の座敷の部屋に入ると、伊織はもう既にビールのグラスを傾けていた。 「なんか、国会議員が密談でもしてそうな店だな」 「はははっ…正解だ。ここは、僕の父が現役の時に懇意にしていた店でね。ここで、公には出来ないようなあんなことやこんなことを話し合っていたのさ」 「へぇ…そんな場所で、今日はなんの密談なんだ?」 ジャケットを脱ぎながら、揶揄する口調で訊ねると。 「…まずは、食事にしよう。女将、料理を運んでくれ」 伊織はそう言って、俺の脱いだジャケットをハンガーに掛けていた女性にそう声をかける。 「畏まりました、伊織さま」 女将が部屋を出ていくと、すぐさま料理が運ばれてきて。 あっという間にテーブルが料理で埋め尽くされた。 「お料理は、こちらで全てでございます。お酒も冷蔵庫に入っておりますので、ご自由にお召し上がりください」 「ああ、ありがとう」 「それでは、なにかございましたら、そちらのベルでお呼びくださいませ」 そう言って、俺のすぐ横に置かれていたボタンを指し示すと、女将は深々と頭を下げて部屋を後にした。 「…人払いまでするなんて、相当な秘密の話のようだ。日本をひっくり返す算段でもつけるつもりか?」 「とにかく、食べよう。仕事終わりで腹が減ってるだろう?ここの料理は絶品なんだ。前アメリカ大使も、通い詰めたほどだからね」 俺の冗談を無視して、伊織は自分と俺のコップにビールを注ぐと。 乾杯もせずに、グラスに口をつける。 俺は小さく息を吐き出すと、一番手前に置かれていた前菜の皿から、青菜のお浸しを口に入れた。 「…旨いな」 「だろう?」 それだけの会話を交わし、後は黙々と食事を進める。 いったいなにを話すつもりなのかと、気もそぞろだったが、料理は確かに今まで食べた中で一番美味しかった。 「…で?いつまで惑っているつもりだ?」 半分ほど食べたところで、空腹感はずいぶんと満たされて。 痺れを切らした俺は、自分から口火を切る。 「話したいことがあるから、呼び出したんじゃないのか?」 「ああ…うん、そうだな」 伊織は静かに箸を置いて、グラスに残ったビールを一気に飲み干すと。 自分を落ち着かせるように、大きく息を吐き出した。 「蓮…僕は君に、謝らなきゃいけないことがある」 「謝らなきゃいけないこと…?」 「ああ」 その言葉に。 伊織が俺を呼び出した訳を、理解した。 「それは、もしかして…あんたが俺の親父のスパイだってことか?」

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