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夜鷹(よたか)6 side蓮

伊織は、大きく目を見開いて固まった。 「…気付いて、いたのか…?いつから…?」 「違和感を感じてたのは、初めて会った時から。最初、あんたは俺のことをよく知らない様子だったのに、いきなり楓の話を始めた。…まるで、俺たちが運命の番だと知っていて、当て付けるかのように。尤も、その時はあんたが話しているのが楓のことだと確信を持てていたわけじゃないから、微かな違和感を感じただけだったけどな」 「…なるほど。なんだ、アカデミー賞なみの演技だと思ったんだけどなぁ」 おどけるように肩を竦めた伊織を無視して、話を続ける。 「確証を持ったのは最近だよ。親父が楓との養子縁組を解消していたことを知った時かな。親父が楓の籍を抜いた当時、楓は那智さんの店に勤めていた。那智さんの店は会員制の高級クラブで、会社の役員クラスや議員なんかがうじゃうじゃくるんだろ?九条にいる時、楓は公の場に顔を出したことはないから、そうそう楓の正体がバレることはなかっただろうが、可能性はゼロじゃない。九条家の人間であること…それは、九条を離れた楓にとってはもう足枷でしかないからな。九条家のΩなんて、どんな政治的謀略に巻き込まれるかわからないし。だから、万が一の時に備えて、楓を自分とは無関係の人間にした。それはつまり、楓が生きて元気でいることも、そういう店で働いてるってことも知らなきゃ出来ないことだろ。だが、那智さんの話だと、その時はまだ楓が本当は何者であるかということは、店の誰も知らなかった。那智さんと誉さんですら。そして、九条に直接関わる人間があの店にきた形跡もない。じゃあなぜ、親父は楓の行方を知っていたのか…」 「…優秀な探偵を雇ったのかもしれないだろう?」 「その可能性ももちろん考えた。だが、楓のことは九条家において最も重大な秘密なんだ。父は、親戚にさえ楓の出生の秘密を話していない。そこまでして守ろうとしたものを、あの父が探偵なんかに託すなんて考えられない。きっと、本当に信頼に値する人物か、もしくは絶対に裏切らない人物か…そういう人間に、楓の動向を調べさせてたに違いない。そう考えたとき、ふとあんたの顔が浮かんだ。そして、あんたと最初に会った時の会話を。もしかして…と思い調べたら、あんたの後援会に親父の名前を見つけたよ。だけど、俺が九条にいる時に、親父とあんたの付き合いはなかったはずだ。それで、確信した。あんた、8年前に自分の父親を政界から追い出してるよな?自分の手で、父親の汚職を暴いて。つまり、父親を追放した後の後ろ楯を俺の親父に頼む見返りとして、あんたは楓の動向を追ってた。それなら、お互いに裏切りは許されないだろう?違うか?」 「…なるほど…さすがの洞察力だな。君が九条を継いでいたなら、どれほど大きくなっていただろうな」 からかうような眼差しは、目を伏せることで遮断した。 「君の想像した通りだよ。僕の後ろ楯となる条件として剛さんが提示したのは、自分の最も大切な宝物を密かに守ること…もっとも、最初からそれを考えて剛さんは僕に近付いた訳じゃないけどね」 伊織はそう言って、一度口をつぐむと。 コップに少し残っていたビールを飲み干し、空になったコップに手酌でもう一度ビールを注いで。 それを一気に煽った。 まるで、苦々しいものを無理やり飲み下すように。 「…剛さんが僕の父親を訪ねてきたのは、12年前…そう、恐らく楓が九条の家を飛び出してすぐの頃だと思う。僕の父親は、表ではΩの社会進出を支援する、なんて耳障りのいいことばかり言って人気取りをしていたが、本当はΩを毛嫌いしていてね。裏では資金稼ぎのためにΩの人身売買に一枚噛んでいた。とあるヤクザの闇組織と通じて、Ω愛好家のお偉いさんにこっそり愛玩用のΩを斡旋し、マージンを受け取っていたのさ」 「…本当の話か?それは…」 「本当さ。剛さんが訪ねてきた当時、僕は父の秘書をしていたからね」 伊織の歯が、ぎり…と音を立てる。 伊織の父親が政界を引退したのは、多くの企業から多額の賄賂を受け取っていて、それを週刊紙にスクープされたのが原因だと聞いていたが… そんなことにまで手を染めていたとは… 「…まぁ、僕の父の話はいい。剛さんは、父の噂をどこかで聞き付けたのか、人を探して欲しいと訪ねてきたんだ。恐らく、その時には当たりをつけていたんだろうな。楓が、闇組織に捕らわれていることを。だが、父は剛さんを門前払いした。当然だ。父としては、自分がそんな組織と繋がりがあるなんて、認めるわけにはいかないからな。相手が九条財閥会長という、これ以上ないほど好条件のパートナーになり得る男だったとしても。だからこそ、僕がつけ入る隙が出来た。僕は自ら剛さんに連絡し、手を組まないかと提案したんだ。僕が楓を見つけた暁には、僕の最も信頼できる後援者となって欲しいと。そうして、僕は父に内緒で楓の捜索を始めた。必死だったよ。なんせ、自分自身の未来と自由がかかっていたからね。父の関わっていた組織にはいなかったから、伝を使って…ようやく見つけたのは、探し始めてから半年後だった」

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