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夜鷹(よたか)10 side蓮
「…だから、やめとけばよかったのに…」
「だってさ!初心者には勝てると思うじゃん!」
「春が蓮さんに勝ったことなんて、今まで何一つないでしょうが」
「うぅぅ…神様は不公平だ…」
俺にこてんぱんにやっつけられて、またしても床に突っ伏して悄気 てる春海を横目で見ながら時計を確認すると、もうとっくに日付が変わっていて。
「やべ…楓、帰ろうか」
慌てて振り向くと、ソファに横になって健やかな寝息を立てている姿が目に入った。
「もう、30分以上前から寝てますよ」
「マジか」
和哉が、ずれた毛布をかけ直しながら小さく息を吐く。
たかがゲームごときにそんなに熱中してしまったのかと、ちょっと恥ずかしく思いつつ、眠ってる楓を起こそうと手を伸ばすと。
「起こさなくていいんじゃないですか?楓、今日だいぶ体調悪そうだったから」
和哉はそう言って、俺を止めた。
「え…?」
「仕事はちゃんとやってましたけど、ごはん、少し残してたし…まだ、京都の疲れが残ってるのかも」
「…やっぱり、休ませればよかった」
「無理でしょ。誰かさんと同じで、頑固ですからね。休めって言ったって、相当具合悪くないと休まないと思いますけど」
「誰かさんって、誰だよ」
「そんなの蓮しかいないじゃん。そういうとこ、そっくりだよね」
いつの間にか復活したらしい春海が、笑いながら俺の肩を抱いてくる。
「今日は泊まっていったら?ぐっすり寝てるのを起こすの、可哀想じゃん」
「うーん…」
「…俺のベッド、枕換えてきますね。楓、ベッドに寝かせてやってください」
俺が返事をする前に、和哉がベッドルームへとさっさと消えてしまって。
泊まりが確定した。
「なんか、悪いな」
「いいって。たまにはのんびり飲もうぜ」
春海は俺の肩をポンと叩くと、まるで自分家みたいにキッチンで酒とつまみの準備を始める。
いや…
もしかして本格的に一緒に住んでるのかも?
この間来た時より、春海の私物が増えてるし…
「えっと…あれぇ?どこやったかな?」
なにかを探してる春海の声を聴きながら、部屋の隅に置かれてる春海が昔から読んでいた週刊誌の束をぼんやり見つめてると。
「用意できましたよ。どうぞ」
和哉が、戻ってきた。
「ああ、ありがとう」
「ねぇかずぅ~、この間のチーズ、どこやった?」
「は?冷蔵庫のなかに入ってるだろ?」
「ないんだけど」
「…おまえ、こっそり食べたんだろ」
「ち、ち、違うよっ!んなわけないじゃん!」
なんだか楽しそうに痴話喧嘩を始めた二人を横目に、楓を抱き上げて、ベッドルームへと移動する。
ベッドに寝かせても、楓はピクリとも動かなくて。
よっぽど疲れたのかな…?
やっぱり、無理やり休ませるべきだったなぁ…
柔らかい髪をそっと撫でて、掛け布団をかけてやろうとした時。
不意に、左腕の袖から覗いた、無数の傷痕が目に飛び込んできた。
『楓の身体は既に限界だった。少しの遅れが命取りになるほどに、切羽詰まった状況だったんだ』
さっきの伊織の声が、頭の深いところで響く。
そうして、再会した直後のヒートの時の、殺してと泣き叫んだ姿が。
どんなに苦しかっただろう…
俺があの時選択を間違ってなければ
おまえにこんなに苦しい思いをさせずにすんだかもしれない
「…ごめんな…楓…」
もう過去は見ないと
二人でそう誓ったけれど
俺の犯した罪は
決して忘れてはいけない
「ごめん…ごめんな…」
ざらりとした感触の傷痕にそっと触れると。
冷たいものが、頬を流れ落ちていった。
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