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夜鷹(よたか)11 side蓮
リビングに戻ると、ビールとつまみがダイニングテーブルに並んでた。
並んで座る二人の向かいに座り、ビールで乾杯すると。
グラスの半分ほどを一気に飲み干した和哉が、俺を正面から見据える。
「で?誰となんの話をしてたんです?楓には、聞かせられない話だったんでしょう?」
直球でそう聞かれて。
一瞬、誤魔化す言葉が頭を過ったけど、今さら二人に誤魔化しても仕方ないと思い直し。
俺は、さっきの伊織の話を洗いざらい話した。
その間、二人はビールに手をつけることもなく、真剣な眼差しでそれを聞いていた。
俺の話が終わると、重苦しい沈黙が横たわる。
二人がなにか言い出すのをじっと待っていると、やがて春海がふーっと息を吐き出した。
「そっか…おじさんが楓を助けてくれてたんだね…よかった…見捨てた訳じゃなかったんだ…」
そうして、心底ほっとしたように笑顔を見せる。
「…まぁ、突っ込みどころは満載ですけどね」
それを、和哉が硬い表情で遮った。
「力を持つために仕事に勤しんで、そのために大切なものを失ったら元も子もない」
「そ、そうだけどさっ!でも…仕方ないところもあるんだよ。前にうちの親父が言ってた。おじさんに代替わりする前、実は九条は潰れる寸前だったって。それを、おじさんがたった数年で立て直して、性別を問わず働けるような組織に改革して、前よりもっと大きな会社にしたんだって。従業員ファーストを掲げ、いつも現場に足を運んで、社員の意見を直に聞いて…あのバイタリティーは半端ないって。経営者として尊敬するって。俺は、そっち方面の才能はないから、詳しいことはわかんないけどさ。会社を経営するって、そこで働く人たちの人生も預かるってことだからさ。中途半端なこと、絶対出来ないのは、わかる。だから…どんなに家族が大事だって思っててもさ、時にはその家族を犠牲にしなきゃいけないこともあると…思う…」
春海の言葉に、かつて見ていたお父さんの大きな背中を思い出す。
あの背中が、今の俺の仕事に対する姿勢のベースになってるのは、間違いなかった。
「…わかってるよ、そんなこと。それに…俺も、龍のこと責められないしね。俺も…あの頃は、楓が消えればいいって思ってたし」
抑揚のない、静かな和哉の声に、春海ははっとした顔になって。
「…俺も…蓮のこと、嫌いだった。楓の側からいなくなればいいって思ってた…ごめん」
情けないほどに眉を下げ、俺に向かって頭を下げるのを、慌てて止める。
「そんなの…俺だって同じだ。龍が楓を抱いたって知った時、腸が煮えくり返るほどの怒りを感じた。あんなに大切だと思っていた弟に、憎しみすら覚えた。それを、そのまま龍にぶつけてしまって…あの怒りが、龍を更に狂わせてしまったんじゃないかと…そんな気がしてならないよ…」
あの時の選択が違ったものであったなら…
消えない後悔が、また胸で疼く。
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