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夜鷹(よたか)12 side蓮

「…龍がΩと結婚したらしいって、親父が言ってたけど…その相手、志摩くんだったんだね…」 押し潰されそうな重い空気を破ったのは、春海の小さな呟きだった。 「楓は、そのことは知らないんだよね?」 心配そうに俺に向けられた眼差しに、頷く。 「那智さんと話して、とりあえずは知らせないことにしてるんだ。彼は優しいαの人と結婚して、幸せに暮らしてるとだけ、伝えてある」 「でも、公表されてしまったら、どこかで目にするかもしれないですよ?九条財閥の跡取りの結婚なら、いつかは公になることですし。ネットニュースなんかで知るよりは、ちゃんと話しておいた方が楓のためのような気がしますけど」 和哉が口にしたのは、尤もな意見だ。 「わかってる。でも、どう話していいか迷ってるうちに、こうなってしまったんだ。楓、その志摩くんって子のこと、すごく可愛がってたみたいで、何回か彼と一緒に住んでいた頃の話をしてくれたんだけど、本当に楽しそうだった。彼のことが可愛くて仕方ないのがわかるくらいに。だから、龍と結婚した、なんて伝えたらどうなるのか…。今はまだ、楓の心を乱したくはないんだ。ようやく過去の傷が少しずつ癒えてきてるところだから…」 「蓮さんの気持ちもわかりますけど…俺は、こうなったらもう、蓮さんの口から話しておくべきだと思いますけどね」 ピシャリと、ど正論を吐かれて。 ぐうの音も出ずに黙り込んでしまった俺を見て、和哉は小さな溜め息を落とした。 「…そもそも、発端からしておかしいですよ。なんで楓が可愛がってた後輩が、龍の奥さんになってるんです?まさか、楓がクラブで働いてたことを龍が知ってるってことじゃないですよね?」 「いや、龍が通い始めたのは、楓が店を辞めてからずいぶん後だって那智さんが言ってた」 「…うん。俺があの店に通ってるときは、龍は楓が死んだと思い込んでたし…俺が楓と一緒に暮らし始めても、何回か食事の誘いがきたから、楓のことは知らないと思う。あいつの性格なら、知ってたら絶対そんなことしないでしょ」 春海の言葉に、そういえばこの12年の間、龍と接点があったのは春海だけだったことを思い出す。 「龍は…俺がいなくなって、相当苦労したよな、きっと…」 「うん、まぁ…大変だったと思うよ。会社の勉強するために、あんなに好きだった部活も辞めてさ。学校でも一人でいることが多くなったみたい。なぁ、かず」 「…まぁね。高校の最後の方は、俺と話すこともなくなったしね」 「…それは、聞いてる…」 「大学に入ってからも、ちょくちょく遊びに誘ったんだけどさ。忙しいって断られることが殆どだった。たまに予定が合って飲みに行っても、いっつも眉間にシワ寄せてるし、疲れてるし…あんなに明るい奴だったのに、にこりとも笑わなくなって…でも、時々見せる表情が、なんか…ひどく寂しそうでさ…まるで、親に置いてかれた子どもみたいに見えて…ほっとけなかったんだ。龍がやったこと考えたら、仕方ないことかもしれないけど…俺、どうしてもあいつのこと、嫌いになれなかったからさ…」 「…ああ。わかってる…」

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