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夜鷹(よたか)13 side蓮

俺だって あいつが楓に与えた傷を考えたら 到底許すことなんて出来ない でも もしも逆だったら… 楓の運命の番が俺じゃなくて龍で 楓が身籠ったのが龍の子どもだったとしたら 俺も龍と同じことをしたのかもしれない そう思うと、怒りとは別の、ひどく哀しい気持ちが胸に押し寄せてくる。 俺たちは血の繋がった兄弟で だからこそ許せないものがあったんじゃないか 俺たちが兄弟でなかったなら 龍をあそこまで追い詰めることもなかったんじゃないだろうか 俺たちが兄弟でさえなかったなら…… 「…でも、ここんとこ急に穏やかになったって、親父が言ってたよ。経営者の自覚がやっと出てきたみたいだって。おじさんの跡を継ぐにはまだまだだけど、少し将来が楽しみになってきたって」 「確かに、ここのところ急速に悪化してた九条グループの業績が、直近の3ヶ月では回復とまではいかないけど、ほんの少し上向きではありますよね。それが、龍が変わったからなのかは、わかんないけど」 「和哉…おまえ、九条のこと…?」 なぜ和哉がそれを知っているのかと、思わず問うと。 笑いながら、肩を竦めた。 「そりゃあ、気になりますよ。もうずいぶん会ってないけど、俺はまだ、あいつのことは友だちだと思ってますしね。向こうはどうか知らないですけど」 「…そうか…ありがとう…」 「蓮さんにお礼を言われることじゃないですけど…でも、龍が変わったとすれば、その志摩ってこが一因であることは、間違いなさそうですね。…春。その志摩って子、どんな人なの?」 「いいこだよ、すっごく。素直で明るくて、楓のこと本当に好きなんだなって、見てるだけでも伝わってきたし…でも、俺には敵対心丸出しだったけどね。βの俺じゃ、楓を幸せに出来ないって。まぁ、そうなんだけどさ」 そう言って小さく笑った春海は、どこか寂しそうで。 思わず、軽く目を伏せてしまう。 「なにそれ。生意気」 「それだけ、楓のことが大好きで、幸せになって欲しいって思ってたってことでしょ」 「ふーん…じゃあ、やっぱり龍と楓の間に起こったことは知らずに結婚したってことか。知ってたら、大好きな楓の敵の龍の嫁になんて、なりたくないよね」 「うん。だと思うよ」 「でも、九条家に入ったら、遅かれ早かれバレるに決まってるじゃん。なのに、なんで隠したまま結婚させたんだろ?それとも、絶対バレないと思ってたのかな?だとしたら、蓮さんのお父さん、考えが甘すぎない?」 「俺に言うなよぉ、わかるわけないじゃん!」 「…まぁ、蓮さんだって、こと楓に関しては判断力が鈍ったり、間違ったりしますしね。スーパーマンな蓮さんのお父さんも、同じことなんでしょうね、きっと」 視線を落としたまま、二人の会話を聞いていると。 和哉の、俺に向けた微妙に呆れた声が聞こえてきた。 「とにかく、その志摩って子が楓を訪ねてくるかどうかもわからないし、会いに来たとして何を言うかも想像つかないけど…俺は、なにか起こる前に、楓に蓮さんから伝えておく方がいいと思いますよ」 「…考えておく」 「フロントスタッフには、楓に何かあったらすぐに連絡くれるように念押しはしておきます」 「ありがとう。すまない」 「それくらい、なんてことないですけど…大事なところですよ。判断、ミスんないでくださいね」 「わかってる」 冷静な言葉に頷くと、春海が深い溜め息を吐いて。 「でも…楓が一番可愛がってた子が、よりによって龍の奥さんなんて…こういうのも、運命、なのかな…」 ボソリと呟いた言葉が、小さな棘となって心に突き刺さった。

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