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夜鷹(よたか)16 side志摩

「…はい。ですから、しばらく志摩はこちらで預かります。…いえ、そちらからの連絡は、寄越さないでください。必要なときは、こちらから連絡します。…ええ。それでは」 誉先生が淹れてくれた甘いミルクティーを飲みながら、ぼんやりと那智さんの声を聞いていた。 衝動的に飛び出したものの 僕が他に行けるところなんて 那智さんのところくらいしかなくて 突然訪ねてきた僕の顔を見た那智さんは なにも聞かずに僕を迎え入れてくれた 「ごめんなさい…」 通話を終わらせ、大きく溜め息を吐いた那智さんに、謝ると。 隣に座っていた誉先生が、僕の頭を優しく撫でてくれる。 「志摩が謝ることじゃないよ。久しぶりに戻ってきたんだから、ゆっくりしていくといい」 「でも…」 「…俺は、いつかこうなると思ってたんだ」 誉先生の柔らかい声とは逆の冷たい声に、思わずビクッと震えると。 「那智」 先生の声色が、諌めるように低くなって。 那智さんはハッとした顔で僕へと駆け寄った。 「ごめんっ!おまえは、悪くないっ!」 そうして、ぎゅうっと強く抱き締めてくる。 「こらこら!おまえの力で妊夫を抱き締めちゃ駄目だって!」 「あ!悪い…」 一瞬、その腕の強さに息が詰まったけど、先生が慌ててそう叫ぶと、すぐに那智さんが僕を離してくれて。 「ごめんな、志摩…」 那智さんとは思えないくらい、情けない顔で僕に頭を下げた。 「あの時…俺が、止めるべきだったんだ。あいつがなんと言おうと、おまえを俺たちの元へ残すべきだった。生まれてくる子どもは、俺と誉で面倒みるつもりだったのに…」 懺悔のような言葉に、那智さんは僕が龍さんと結婚することに、ずっと反対していたことを思い出す。 あの時は、なんでそんなに龍さんが嫌いなんだろうと不思議に思ってたけど… 「…知ってたんですか…?柊さんが、本当は九条楓さんで、龍さんのお兄さんだったこと…」 「…ああ。すまない」 「じゃあ…龍さんが、楓さんの赤ちゃんを…殺した、こと、も…?」 胸の痛みで、言葉が詰まると。 那智さんの顔も、苦しそうに歪んだ。 それだけでもう、答えなんて聞かなくてもわかった。 僕だけ… 僕だけが、なにも知らないで… 大好きな柊さんのこと 裏切ってしまったんだ 「っ…ぅ…ぅぅっ…」 胸の痛みが、また大きくなって。 涙が、あとからあとから溢れ出す。 「志摩…ごめんな…ごめん…」 那智さんと誉先生が、何度も謝りながら背中を擦ってくれたけど、苦しさはますます大きくなるばかりで。 頭のなかに浮かんでくるのは、柊さんの儚くも優しい、天使のような微笑み。 「…柊さんに…会いたい…」

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