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夜鷹(よたか)17 side蓮

『総支配人、相馬さまというお客様がいらっしゃってますが』 「ああ。通してくれ」 フロントからの電話に答えながら。 思わず、窓から見える楓がまだいるはずのマンションへと視線を投げた。 那智さんから久しぶりの連絡がきたのは 昨日の昼過ぎ 『大事な話があるんだ。会えないか?…柊には秘密で』 そう言われた瞬間 なんの話か、なんて聞かなくてもわかった ついつい漏れてしまう溜め息を吐きつつ、今朝俺を送り出してくれた時の楓の笑顔を思い浮かべていると、部屋をノックする音がする。 「どうぞ」 返事をすると、程なくして開かれたドアの向こうから、酷く硬い表情の那智さんが現れた。 「わざわざ足を運んでいただいて、すみません」 「…柊、は?」 「まだ、家にいますよ。出勤までにはまだ時間がありますから」 案内してくれたスタッフに、コーヒーを持ってきてくれるように頼み。 那智さんを部屋に招き入れ、応接セットのソファへと座らせる。 「そうか」 那智さんはそう呟いたっきり、向かい側に座った俺の顔をじっと見つめて。 コーヒーを運んできたスタッフが部屋を出ていくと、ようやく気を緩めたように息を大きく吐き出した。 「…俺がなんでここにきたのか…わかってるって顔だな」 「恐らくは」 「志摩が、九条を飛び出した。今は、うちで預かってる」 「…そうですか」 「…俺はな、蓮。おまえの親父が嫌いだよ。ずっと嫌いだったが、今回のことでもっと嫌いになった。柊を…実の子どもを、助けもしないでほったらかしで長い間苦しめておいて、今度は志摩のことも苦しめてやがる。なんで、もうすぐ子どもが産まれるっていうこんな大事な時期に、あの事を喋った!?だったら、最初から本当のことを話して、結婚なんてさせなきゃよかったんだ!」 憎しみにも似た怒りに満ちた眼差しを、俺は目を逸らさずに受け止める。 「結局…おまえらαは、俺たちを道具としてしか見てないんだ。自分の血を引くαを産ませるための道具としてしか。どうせ、αが産まれたら志摩から取り上げて、Ωが産まれたら、志摩もろともに捨てるつもりだったんだろ。…柊と、その親父さんみたいにな」 憎しみの籠った言葉を放ちながら、那智さんは震えていて。 それは怒りというよりも、深い哀しみから溢れるもののように、なぜか思えて。 きっと今まで、そうやって使い捨てにされてきたΩをたくさん見てきたんだろう。 そして、もしかしたら那智さんも同じような経験をしたのかもしれない。 お父さんが本当は楓を救うために必死だったとしても 結果的に楓は深い傷を負ってしまっているんだ 那智さんが真実を知ってもきっと 俺たちを許すことはないだろう それでも、俺に出来ることは謝ることしかないから。 「申し訳、ありません」 深く頭を下げた。 那智さんは、一瞬苦しげにくしゃっと顔を歪めて。 「…違う。今のはただの八つ当たりだ。おまえは、親父さんとは違う。悪かった」 身体に渦巻く怒りを吐き出すように、大きく息を吐いた。

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