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夜鷹(よたか)18 side蓮

そのまま、気まずそうに口をつぐんでしまったから。 「それで、志摩くんは今どうしてるんですか?」 俺から話を切り出した。 「もうすぐ臨月ですよね?子どもは、大丈夫なんですか?」 「ああ。今は誉が診てやってるが、うちの小さな診療所じゃ出産は出来ないんだ。いつもなら誉の友人の産科か亮一んとこに頼むんだが、あいつ、一昨日辺りから血圧が上がってて、あんま状態良くなくて…だから、本当ならずっと検診受けてた病院で産むのが一番なんだよなぁ…」 言葉を濁して、那智さんは渋い顔でコーヒーを口に運ぶ。 「…そうですね…」 俺も、そう相槌を打つしかなくて。 再び落ちた沈黙のなかで、二人でコーヒーを啜っていると。 「…柊に、会いたいって言うんだ」 唐突に、那智さんが言った。 「泣きながら、さ…柊に会いたいって…柊に謝りたいって言うんだよ…なんにも知らないで、あいつの子どもを身籠ったこと、謝りたいって…そんなの、志摩にはなんの罪もないのに。全部、あいつが悪いのにさ」 想像していたことだが、実際に耳にすると、思っていたよりも強く、彼の苦しみが胸を締め付けてくる。 「…すみません…」 「なんで、おまえが謝んだよ。悪いのは、おまえの弟だ」 「いえ…龍を、あそこまで追い詰めたのは、俺なんです。俺があの時もっと、冷静になってれば…」 「過ぎたことを言っても、どうしようもねぇよ。嘆いて変えられるもんでもない。それに、過去にどんなことがあったって、今こうなってるのはあいつ自身の問題だろ。変われるチャンスなんて、いくらでもあったはずだ。現に、柊はあんなに苦しんだけど、ちゃんと乗り越えて今は自分で未来を切り開こうとしてる。いつまでも同じところでぐずぐずしてるのは、奴が弱いせいだ」 謝ろうとしたのを、ピシャリと遮られて。 俺は言葉を飲み込むしかなかった。 黙り込んだ俺を見て、那智さんは小さく息を吐く。 「…柊は、まだ知らないんだろ?志摩のこと」 「ええ。まだ、話せなくて…」 「だよなぁ…どうすりゃいいんだろ…」 そうして、まるでお手上げだと言うように両手を上げ、そのまま頭の後ろで腕を組んで天を仰いだ。 「…楓に、話します。龍と、志摩くんのことを」 俺は、膝の上に置いた手をぎゅっと握った。 「えっ…」 那智さんが、驚いた顔で小さく叫ぶと、俺の方へ身を乗り出す。 「そもそも、これは俺たち兄弟の問題なんです。俺たちが目を背け、向き合おうとしなかったがために、志摩くんを巻き込んでしまった。俺たち三人がこの問題を乗り越えなければ、きっと志摩くんを救うことは出来ない。龍も…楓も、本当の意味で前を向けない」 「でも…そうしたら、柊は…」 「傷付く、かもしれません。また苦しむかも…その時は、俺が全身全霊で抱き締めてやります。苦しみが薄れるまで…楓がまた笑えるようになるまで、ずっと。俺は、そのために楓のαとして生まれたんです」 思いを込めて宣言すると、那智さんはポカンと俺の顔を見つめて。 それからなぜか、笑った。 「なんだよ…おまえ、ただのヘタレかと思ってたのに、案外強い男じゃん」 「いえ…俺は、弱い男ですよ」 それに微笑みで答えながら、冷めたコーヒーを口に運ぶ。 いつもより苦く感じたそれは、昔の感傷かもしれなかった。 「幼い頃からずっと、強いαでなければならないと思っていました。九条の跡取りとして…。でも、本当は気付いていた。自分の弱さに。そのせいで、俺は楓を苦しめてしまったのに…それなのにあいつ、よかったって言ったんですよ。俺のΩとして生まれてきて、本当に良かったって。そんなこと言われて、いつまでもヘタレてちゃ、いられないでしょう?」 楓の言葉が あの幸せそうな微笑みが 俺に力をくれる 「αは、愛するΩを守るためなら、なんだって出来る。誉さんだって、そうじゃないんですか?」 問いかけると、那智さんは目を真ん丸にして。 それから少し、照れ臭そうに笑った。 「…わかった。おまえに任せるよ。柊と志摩のこと、よろしく頼む」

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