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夜鷹(よたか)25 side蓮

「…ごめんなさい…」 「謝らなくていい。志摩が、謝る必要なんてない」 優しい微笑みで、柔らかい声で。 志摩くんへ語り掛ける楓の手は、でも彼に触れることはなくて。 そのことが、楓の心の葛藤を表しているように思えて、胸が苦しかった。 「ごめ…なさい…」 「そんなに泣いてちゃ、お腹の赤ちゃんも苦しくなっちゃうよ?」 「…でも…」 「ねぇ、志摩。今、幸せ?」 そう問いかけられて。 まるで土下座をするようにベッドに突っ伏して泣いていた志摩くんが、涙でぐしゃぐしゃの顔をゆっくりと上げる。 「今、幸せ?龍は、優しくしてくれる?」 楓の質問に、志摩くんは顔を歪めた。 「志摩は、龍のことを愛してる?」 そうして、また新たな涙を溢しながら、微かに頷く。 「龍は、志摩のことちゃんと愛してくれる?」 その問いにも、また小さく頷いて。 「柊さん…ごめんなさ…」 「だったら、謝る必要なんてない。俺のことなんて、気にすることないよ」 また謝ろうとしたのを、楓は少し強い声で遮った。 「二人が愛し合って、赤ちゃんが生まれてくるんでしょ?なのに、どうして泣くの。その子は祝福されて生まれるべき子なんだよ?」 「…しゅ…さ…」 「結婚おめでとう、志摩。龍と赤ちゃんと、幸せになるんだよ」 楓が、握り締めていたシーツを離し、その手を志摩くんへと伸ばした。 その時。 「…ぅ…うーーーっ…!」 突然、志摩くんが苦しそうに呻いて、再びベッドへと沈んだ。 「志摩っ!?」 「どうした!?志摩っ!」 「…お…おな、か…いた…い…」 瞬間、ベッドから少し離れて立っていた俺の目に映ったのは、真っ白いシーツを少しずつ染めていく目の覚めるような紅。 「っ…出血してるっ!」 思わず叫ぶと、楓が小さな悲鳴を上げる。 「やべぇっ…」 「救急車、呼びます!」 「志摩!志摩っ!しっかりしてっ!」 急いで消防に連絡すると、運良くすぐに来てくれるとのことだった。 「志摩っ!志摩ぁっ!」 電話を切ると、楓は苦しげに悶える志摩くんを抱き締めていて。 シーツの赤い染みは、徐々に大きく広がっている。 「やだっ…血がっ…こんな、いっぱいっ…止まんないよっ…嫌だっ…志摩ぁっ…」 パニック状態で泣き喚く楓の姿が、あの苦しんでいたヒートの時の姿に重なって。 「楓っ!そんなに強く抱いたらだめだ!」 「やっ…やだっ…志摩っ…志摩ぁっ…」 無理やり志摩くんから引き離し、強く腕の中に抱きすくめた。 「那智さんっ!志摩くんは今何ヵ月なんですか!?」 「あと一週間で、臨月だ!でも、これはっ…」 刻々と赤く染まっていくシーツに、なす術もなく。 「志摩っ…やだっ…助けてっ…誰か、志摩を助けてっ…」 泣き叫ぶ楓をただ抱きしめたまま、少しずつ近付いてくるサイレンの音を聞いていた。

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