407 / 566

夜鷹(よたか)29 side楓

目を開くと、見慣れない真っ白な天井が見えた。 「…え…?」 ここはどこだろうと、思わず声を漏らすと。 「柊、気が付いたか?」 傍らで誰かの動く気配がして、そこに那智さんの姿を見つけた。 「うん。あの…ここ、どこ…?」 「亮一の病院だ」 「病院…?なんで…?」 「おまえ、倒れたんだよ。志摩が運ばれた後、すぐ」 「え…?」 那智さんの言葉に、靄が掛かったみたいに朧気な記憶を手繰り寄せる。 ホテルで、志摩に会って… 志摩、ずっと泣いてて… 血が、いっぱい出て……… 「っ…志摩はっ!?」 蘇った、真っ赤な血の海の記憶に、思わず飛び起きると。 ちくりとした腕の痛みと共に、なにかが倒れる派手な音が辺りに響き渡った。 「バカっ!」 「うっ…」 同時に、クラっと酷い目眩を感じて。 その場に踞りながらベッドの下を見ると、点滴セットが倒れて散乱している。 「あー、もうっ!すいません!点滴倒しちゃったんでお願いします!」 那智さんがナースコールを押して。 「おとなしく寝てろ、バカ!」 弾みで抜けた点滴の針を投げ捨てると、俺を再びベッドへ寝かせた。 「あー、血が出てんじゃねぇか…」 「那智さん、志摩は!?志摩は、大丈夫なの!?蓮くんから、なんか連絡あった!?」 心配そうに俺の左腕を取った那智さんの腕を強く掴んで、訊ねると。 那智さんは少し困ったように、眉を潜める。 「…赤ん坊は、無事に産まれた。男の子だって」 「ほんと?良かった…志摩は?」 「…胎盤が剥がれて、出血が酷くて…とりあえず、手術で血は止まったらしいけど、今は集中治療室だそうだ。意識は、まだ戻らないって」 「っ…そんなっ…」 どうして…!? どうして、志摩がそんなことに…… 「…俺の…せいだ…」 「柊?おまえ、なに言って…」 「俺のせいだっ!俺のっ…」 「柊、落ち着け!おまえのせいなんかじゃねぇからっ!」 「違うっ!俺がっ…あんなこと思ったからっ…」 「あんなこと…?」 祝福 しなきゃと思ってた 俺と龍のことは志摩には関係ない 産まれてくる子どもにだって そうわかってたのに 「…なんでって…そう思っちゃった…なんで、って…なんで、俺の赤ちゃんは生まれることが出来なかったのに…なんで、志摩の赤ちゃんはみんなに祝福されて生まれるの、って…」 「…柊…」 「そんなこと、俺が思っちゃったから…だから、きっと…」 「関係ねぇよっ!そんなの、関係あるわけないだろっ!」 那智さんが、俺の言葉を強く遮って。 ぎゅっと俺を強く抱き締める。 「大丈夫!絶対、大丈夫だ!絶対絶対、志摩は死なねぇからっ!」 まるで呪文のように、那智さんが繰り返すのを泣きながら聞いていると。 「ありゃー、派手に倒したなぁ」 のんびりした亮一さんの声が、部屋に響いた。

ともだちにシェアしよう!