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夜鷹(よたか)34 side蓮

帰る前に声だけでも聞こうと楓の携帯に電話をかけたが、これまでと同じように電源が入ってないというメッセージが流れてきた。 「あれ…まだ病院なのか?」 なにか胸騒ぎがして。 俺は、慌てて那智さんの携帯を呼び出す。 『志摩は!?目ぇ覚めたか!?』 ワンコールも待たずに、大きな声が返ってきた。 「ええ。さっき意識戻りました。もう、大丈夫だそうですよ」 『そっか。よかった…』 「それより、楓、まだ入院してるんですか?過労って話でしたよね?まさか、なんか他の病気が見つかったとかじゃないですよね!?」 心底安堵したような声を出した那智さんに、今度は俺が大きな声を出す番だった。 『え?あ、あー…』 なのに、なぜか那智さんはひどく曖昧な返事で。 「なんの病気なんですか!?」 『あ、いや!違う!病気じゃねぇっ!』 慌てて問い詰めようとすると、焦って否定される。 「病気じゃ、ない?じゃあ、なんでまだ病院にいるんですか?」 『えっと…それは、だな…』 「それは?」 『…っ、ダメだ!俺の口からは、言えねぇっ!』 「…は?」 『俺が言うのは、反則だからな!』 「反則…?なんのことです?」 『あー、だからっ!それは、直接柊に聞いてくれ!』 結局、なにがなんだかわからなかったが。 「…とにかく、変な病気ではないんですね?」 『それは違う!あいつは、元気だ!…あ、でも今は寝てるけど』 重大な病気が見つかった、とかではないようで。 俺はほっと息を吐いた。 「まぁ…なら、いいですけど…とにかく、今からそっちに戻ります。亮一の病院でいいんですよね?」 『ああ。下に来たら、連絡してくれ。病室、教えるから』 「はぁ…わかりました。じゃあ、後で」 通話を終わらせても、頭の中では?マークが飛び交っている。 「なんなんだ…?ま、帰ればわかるか…」 なんだか腑に落ちないものを抱えながら、立ち上がり。 エレベーターへと向かった。 ボタンを押そうとすると、ちょうどこの階に着いたところで。 人が降りてくるだろうと予測し、脇に退いて扉が開くのを待つ。 開いた瞬間、中から人が飛び出てきて、肩が軽くぶつかって。 「すみません」 謝りつつ、入れ替わりにエレベーターへ乗り込もうとすると。 「蓮さんっ!」 強く、肩を掴まれた。 驚いて、ぶつかった人の顔を確認すると、龍の秘書の佐久間で。 その後ろには、長年ずっと父の秘書を勤めている佐久間の父もいた。 「よかった!一緒に来てください!」 「えっ!?」 佐久間は掴んだ肩を強引に引っ張って。 今降りたばかりのエレベーターに乗り込む。 父親も後に続き、俺が向かうはずの一階ではなく、最上階のボタンを無言で押した。 「ちょ…なんだよ!俺は、もう帰るんだが!?」 「駄目です!こんな時にっ…あなたがいてくれて、本当によかった!」 「は?俺は、もう九条とは…」 関係ない。 そう口にする前に。 「社長が…あなたのお父様が、血を吐いて倒れられました」 いつもロボットのように無表情な佐久間の父親が、淡々とその事実を俺に突きつけた。 どうして 運命はある日突然 全てが一気に動き出すのだろうか

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