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天女(つばくらめ)11 side楓

しばらくの間、三人で緩みっぱなしの顔で志摩と世絆の写真を眺めてたら、来客を告げるチャイムの音がした。 「ええー、午後の診察はまだなのになぁ」 誉さんが珍しく迷惑そうな顔で、診療所の方へひょこひょこと歩いていき。 「柊にお客さんだったよ」 すぐに戻ってきたと思ったら、その後ろには春くんの姿が。 「お!なんだ、元気そうじゃん。よかった…あっ…ごめん、被った…」 2個目のチョコレートケーキを頬張っていた俺を見た春くんは、手に持ってたケーキの箱をちょっと困ったように掲げてみせる。 その箱に書かれたロゴは、かつて一緒に暮らしていた頃に春くんがよく買ってきてくれた、俺の大好きなケーキ屋さんのもので。 「うわぁ、そこのケーキ久しぶり!ありがと!モンブラン、入ってるよね!?」 思わず手を伸ばすと、春くんは困った顔で箱を後ろに隠し、なぜか誉さんを見た。 「…楓、これ何個目ですか?」 「2個目。まぁ、いいよ。たまには。あんまり食べ過ぎは良くないけど、食べられないストレスも良くないからね」 誉さんは、肩を竦めてそう言って。 「さてと。僕は診療に戻るよ。藤沢くん、ゆっくりしていってね。柊、ケーキは3個までだからね」 俺に強く念押しして、診療所の方へと戻っていく。 「俺も、今日は月末の事務処理が溜まってるから、早めに店に行くわ。ってことで藤沢、柊のこと頼むな」 続けて那智さんも、バタバタと部屋を出ていって。 リビングには、俺と春くんだけになった。 「…なんか俺、気を遣われた?」 「そうかも」 春くんは申し訳なさそうに肩を竦め。 「あるよ、モンブラン。でも、後で食べなね?」 そう言って、俺にケーキの箱を差し出す。 「うん。ありがと」 俺はそれを受け取って、冷蔵庫にしまった。 「体調は?起きてて大丈夫なの?」 「うん。あんまり動き回るのは禁止されてるけどね。仕事も誉さんにダメって言われてるから、和哉に申し訳なくて…」 代わりに那智さんが買ってきたケーキとコーヒーを出すと、春くんは笑ってそれを受け取る。 「そんな楓に、かずから伝言。蓮さんがいなくて、死ぬほど忙しいから、あなたの面倒まで見てられません。だから、今はどうかおとなしくしといてください、だって」 その台詞に、憮然とした表情でそれを言う和哉の顔が頭にパッと浮かんで。 思わずぷっと吹き出してしまった。 「なんか…和哉らしい」 「だよね~。もうちょっと言い方ってもんがあるのにさぁ、だからいっつも誤解されるんだよねぇ」 困ったように眉を寄せた春くんからは、ふんわりと柔らかなオーラが出ていて。 ちょっと前から感じてたけど もしかして二人 すごくいい関係なのかな…? だったらいいな 春くんには幸せになって欲しいから… 「ん?なに?」 「ううん、なんでもない。和哉に、ありがとうって伝えてくれる?」 「オッケー」 優しく微笑む春くんに、俺も笑顔を返した。

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