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天女(つばくらめ)12 side楓

「…で?まだ赤ちゃんのこと、蓮には伝えてないの?」 二人でゆったりとお茶を飲みながら、取り留めのない話をしていると。 満面の笑顔で突然、春くんが訊ねた。 「あー、うん…まぁ…」 いきなりの問いかけに、反射的に目を逸らしてしまう。 「…今は、蓮くんの方が大変だからさ…俺のことは、後でいいし」 ぼそぼそと答えると、春くんがじいっと俺を食い入るように見つめているのを感じて。 その見透かすような刺すような眼差しから逃れたくて、俺は顔を伏せた。 「だったら、病院に会いに行こ?俺、ついてくから。そうしたら、志摩くんにも会えるでしょ?」 「ううん、いい。俺なんか行ったら、邪魔になっちゃうし」 「…楓は、それでいいの?」 「…うん」 「本当に?」 「もうっ…春くん、ちょっとしつこ…」 「蓮のことだけじゃなくて。もしかしたら、もう二度と剛さんに会えなくなるかもしれないんだよ?楓は、それでいいの?後悔しないの?」 「えっ…」 突然、話の矛先が変わって。 思わず顔を上げると、春くんは俺を責めるのでも詰るのでもなく、ただ凪いだ海のような穏やかな瞳で見つめている。 「…知ってるの…?」 「俺の親父、剛さんの親友だから」 「あ、そっか…」 「危ないって聞いたよ?今は少し落ち着いたけど、いつ急変してもおかしくないって」 「…うん…知ってる…」 「会いに行かなくていいの?楓の、本当のお父さんでしょ?」 「…うん…わかってる、けど…」 言葉を濁し、また俯くと。 向かい側に座ってた春くんが立ち上がる気配がして、その気配が俺の横へ移動し。 膝の上で無意識に握り締めていた俺の手を、大きな手がそっと包み込んだ。 「なんか悩んでるなら、話してみれば?少しは心の整理がつくかもよ?」 「…でも…」 躊躇する俺の顎を、春くんの長い指が掴み。 再びおずおずと顔を上げると、春くんはいつも俺を包み込んでくれた優しい微笑みで俺を見ている。 「一人で抱え込んでるの、お腹の赤ちゃんにもよくないんじゃない?楓がなにを思ってても、俺は楓のこと否定しない。だから、今の正直な気持ち、俺に話してみたら?ぐちゃぐちゃな感情って、誰かに話すことで整理できることがあるし。蓮には話せないことでも、俺になら気軽に話せるでしょ?」 その台詞は、まるで俺の心の中を見透かしているようで。 「っ…なんで、わかるの…?蓮くんには話せないこと…」 「そりゃあ、顔見たらわかるよ。何年片思いしてたと思ってんの。楓のことなら、蓮の次に知ってるつもりだよ?」 熱いものが込み上げて。 涙が零れないように、口をぎゅっと引き結ぶと。 春くんは困った顔で、俺の頭を子どもにするみたいに、いいこいいこって撫でた。 「大丈夫。話してみな?」 こんなこと 思っちゃいけない 考えちゃいけない わかってる、けど… 「…俺…どうしたら、いいの…?」

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