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天女(つばくらめ)15 side蓮
「ご無沙汰してます、おじさん」
春海は持ってきた花束を花瓶に飾り、眠るお父さんに向かって頭を下げると。
ベッド脇に用意した椅子に腰掛け、じっとお父さんの顔を見た。
「…ずいぶん、痩せたね…」
「…ああ…」
「…どうなの?」
「もう、手の施しようがないと言われた。このまま、意識が戻らなくてもおかしくはないし、戻っても…保って3ヶ月だろうと…」
「…そっか」
ポツリと呟くと、お父さんを見つめたまま、俺の肩に手を掛けてぐっと強く握る。
「…おまえは、大丈夫なの」
「ああ。大丈夫だ」
「…そう言うと思った」
俺の答えに、ふっと息を吐いて。
お父さんから俺へと視線を移し、どこか困ったような笑顔を浮かべると、ポンポンと肩を叩いた。
「しかし、参ったよ。お見舞いにきたのに、セキュリティの人、全然通してくんないんだもん。龍が来なきゃ、追い返されるとこだったわ」
「ああ、悪い。入院してること、まだ会社にも公表してなくて、一部の幹部しか知らないから…」
「後で、うちの親父も来るってさ。その時は通してやって」
「もちろん」
「んで、今夜は親父が付き添うってさ」
「え?」
「友人同士、積もる話があるから、蓮くんは遠慮してくれって」
「いや、でもそれは…」
「おまえは、今夜楓のとこに帰ること」
きっぱりと言い切って、もう一度、今度は少し強めに肩を叩く。
「楓の側にいてやって」
その瞳が不意に真剣さを帯びて。
「楓に、なにかあったのか?」
思わず、俺の肩に置かれていた腕を、掴んだ。
「すごく、悩んでるよ」
「悩む?なにを?」
「おじさんへの気持ち…上手く自分で整理できないみたい。たぶん、楓だって本心ではおじさんのこと好きなんだと思うけど…やっぱり諒さんのことが引っ掛かってるみたいで。どうしたらいいのか、わかんないって」
「…ああ。なんとなく、わかってる」
楓にとって
父親とは諒叔父さんのことだけ
いくらお父さんにも事情があったとはいえ
叔父さんを七年間も放置し苦労かけて
最期は自ら命を絶つまで追い詰めたのは
間違いなくお父さんの責任だ
小さい楓が諒叔父さんを失ったことで受けた心の傷の深さを思えば
例え本当の父親がお父さんだったとしても
血の繋がりだけで親子の関係を強要することは出来ない
「だから、楓はお父さんのことは気にしなくていいと思ってる。お父さんのことは、俺だけが考えればいい」
「ん~…まぁ、それはそうなんだけどさ…」
春海は、なにか納得できなさそうに呟いて。
考え込むように、顎に手を当てる。
「…なぁ、蓮」
「なんだ?」
「あの事って…楓に話す気はないの?」
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