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天女(つばくらめ)16 side蓮
春海が言ってることがなんなのかは、すぐに理解した。
「ないよ。あの事は、俺が墓場まで持っていく。楓は、知らなくていいことだ」
「うん…俺も、そう思ってたんだけどさ…なんか、楓の話聞いてたら、本当にそうなのかなって思って…」
「どういうことだ?」
「もし、さ。おじさんが亡くなってから、おじさんが楓を助けたってことを知ったら、楓、すごく後悔するんじゃないかと思ってさ」
「そんなことにはならない。楓には、絶対に知らせない」
「おまえがそう思ってても、どこから話が出るかわかんないだろ?例えば志摩くんとか」
「そこは、ちゃんと口止めしておく」
「それに…これは俺の勘だけどさ。楓、本当はおじさんのことちゃんとお父さんだって思いたいんじゃないのかなぁ?」
「…は?」
俺が考えたこともなかった思考に、思わず首を傾げると。
春海は再び、眠るお父さんの顔を見つめた。
「今まではさ。諒おじさんのこともあるし、なにより楓自身が自分が生きていくことで精一杯で、そんなこと考えることもなかったんだろうけど…自分が親になるってわかって、なんとなくおじさんのことを考えたんじゃないかなぁって。だけどさ、今までの積み重ねがあって素直にお父さんって言えないから、苦しいんじゃないかって感じたんだよね。楓、俺に言ったんだ。もう、お父さんの時みたいな後悔はしたくないって。おじさんが楓を守るために必死だったこと、知らないままでいたら、諒さんを失った時よりもっと、後悔するんじゃないのかな?それって、楓にとってもおじさんにとっても不幸なことなんじゃないかな?」
「…それは、でも…」
春海の言葉に、反論しようとして。
「…ん?」
なにかが引っ掛かった
「…おい。今、何て言った?」
「ん?だから、ちゃんと話した方がいいんじゃない、って…」
「そこじゃない!その前!」
「え?どの前?」
「楓が生きていくことで精一杯だった、の後!」
「え?俺、なに言った?」
「自分が親になるって!」
まさか…!
「…あぁっ!」
春海は、思いっきり失言したって顔で、口元を手で覆う。
「おい!まさか、楓はっ…」
「あー、ごめん、楓ぇ…」
「もしかして、あいつが体調悪かったのって…!」
「あー、うん、えっとぉ…詳しくは、楓に聞いて?」
気が付いたら、椅子を蹴り飛ばして立ち上がっていた。
「帰る!お父さん、すみません!」
眠るお父さんに頭を下げ、ドアへと駆け出す。
「あ、セキュリティの人に親父のことだけ言っといてよー!」
「わかってる!」
追いかけてきた言葉に、怒鳴るように言い返して。
俺はお父さんの病室を飛び出した。
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