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天女(つばくらめ)18 side蓮
「寒くないか?」
「うん。大丈夫」
久しぶりに戻ったマンションは、しばらく人がいなかったからか、冷えきっていて。
俺は慌てて楓を毛布でぐるぐる巻きにしてソファに座らせると、エアコンを強風で起動させた。
「なんか暖かいもの、飲むか?コーヒーとかお茶とか…あ、いや、コーヒーって妊夫って飲んでよかったのか?牛乳いっぱい入れればいいのか?」
「蓮くん、ちょっと落ち着いて」
キッチンでうろうろしていると、楓が呆れたように笑って。
「今はなにも飲まなくていいから、側にいてよ」
毛布から出した手で、横をポンポンと叩くから。
俺は結局なにも持たずにキッチンを出て、誘われるがままに楓の隣に腰を下ろす。
楓は、嬉しそうに微笑んで。
身体に巻き付けた毛布を一度解き、俺の身体も一緒に包み込むと、ぎゅっと俺の腕に抱きついた。
瞬間、ふわりと楓の優しいフェロモンの香りが俺を包んで、温かい安心感を覚える。
「ごめんね、今まで黙ってて。なんとなく、電話じゃなくてちゃんと顔見て報告したくて…みんなには、蓮くんが帰ってくるまで黙っててって、俺が頼んだの」
申し訳なさそうに眉を下げたその気持ちに、胸がチクりと痛んだ。
「いや、楓が謝ることない。俺が大事なときに戻らなかったから…。一人で不安だったろ?気付かなくて、ごめん」
おでこにそっとキスをすると、ますます眉が下がる。
「ううん…九条のお父さんが大変な時なんだもん…俺の方こそ、ごめんね。こんな時に妊娠だなんて…」
「なんで謝るんだよ」
「だってさ…んっ…」
喜びの言葉よりも謝罪の言葉を紡ごうとする唇を、塞いだ。
「俺、今すげー嬉しいよ。いつかって思ってた奇跡が、まさかこんなに早く起きるなんて、信じられない」
唇を軽く触れあわせたまま、目と目を合わせると、楓の瞳が潤む。
「今までずっとずっと頑張ってきた楓に、神様からのプレゼントかもな」
「…蓮くん…」
「今度こそ、なにがあっても必ず、俺がおまえと子どもたちを守るから。だから、楓は元気な赤ちゃんを産むことだけを考えてくれ。今度こそ、二人で産まれてきた子を祝福しよう」
「っ…うんっ…」
小さく頷いた拍子に、頬を流れ落ちた涙を唇で吸いとり。
もう一度、唇にキスをした。
角度を変えながら、啄むようなキスを繰り返すと、背中に回ってきた楓の腕が強く俺を引き寄せて。
甘い唾液を滴らせた舌が、強引に歯列を割って俺の咥内に入ってくる。
珍しく積極的なその動作に、眠っていた情欲にあっという間に火が着いて。
舌を絡め、唾液を啜り、吐息まで奪いとるように深く口づけた。
「ふ…ぁ…ぅ、んっ…」
重ねた唇の隙間から漏れる、艶かしい声が鼓膜を擽り。
濃くなるフェロモンの香りに、否応なしに身体の熱が上がる。
貪るようなキスを交わすと、飲み込めなかった唾液が楓の唇の端から零れて。
それを追うように首筋に唇を這わすと、楓がふるっと大きく震えた。
「っ…蓮、くっ…ダメっ…赤ちゃん、びっくりする、からっ…」
「わかってる。少しだけ…」
伸びてきた後ろ髪を掻きあげ、うなじの噛み痕に軽く歯を立てると。
また震えて、とても幸せそうに笑った。
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